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□明ける
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ラビの突然の行動に戸惑う玲子は、ビクビクと肩をすぼめながらもラビを見ていた。
「…お前っ」
今にも泣き出しそうになるのを必死に堪え眉間にシワを寄せているラビ。
ラビは玲子の頬に手を添えて自分の方へと顔を向かせた。じっと見つめるラビにたじろぐ玲子。顔の距離が今までにないくらい近い。
『あ、あの、ラ、ビ…?』
近い距離でじっと見つめるラビに、少し赤面しつつ名前を呼ぶ。すると、ラビは何かを確信したかのように切く、そして嬉しそうに顔を歪めた。
「お前…
…目、見えて……」
ラビの言葉で、ようやく驚いている理由が分かった。
ラビが驚いている理由。
そして自分自身も驚いている。
先程とは違う心臓の鼓動。
嬉しさからか、驚きからか、ドキドキと高鳴る。
周りを見渡すと、誰とでも視線が合うから余計にだった。
『…本、当だ…』
自分でも気付かなかった。
今まで見ることのできなかった世界。
黒いだけの世界ではなく、皆のいる世界。
それが、見えてた。
自覚はしていなかった。
当たり前な事過ぎて気付かなかった。
見えていることが当たり前過ぎて、ラビに言われたとき本当に何を言っているのか気付かなかった。
目が見えていなかった事さえ忘れていたかのように、いつの間にか元の状態に戻っていた。
『本当だ…本当に、見えてる…っ』
驚きは喜びに変わって、喜びは涙に変わっていた。
『ラビ…っ、…リナリーっ!』
うんと腕を伸ばして、次は玲子が二人に抱き着いた。
「玲子!見えるの…?」
『うん。うん、見える…っ』
腕の力が調節出来ない玲子。苦しそうに顔を歪める二人だが、それさえも受け止めていた。
「…神田、行かないんですか?」
喜びの声が聞こえる。喜びのあまり涙声の人もいた。そんな中、玲子に背を向けているアレンは近くにいる神田に声をかける。
「神田は、すぐに駆け寄ると思ってましたけど」
いつもの彼ならば誰よりも心配し気にかける。
しかし今の神田は遠く離れた所で彼女の無事を見守っているだけだ。少し不思議に思ったと口にすれば、素早く反論が返ってくる。
「俺がそこまで入れ込んでると思ってんのか?…それに、それはこっちの台詞だモヤシ」
「アレンです」
一度も目を合わさず、一方を見ている神田に「俺はあいつの事どうも思っていない」と言われても、何の説得力もない。
心配そうに目を向けていて一度も視界から離さないようにじっと見つめている。彼女から少しの微笑みが浮かぶと、少し安堵したかのように小さなため息をついて、ようやく神田は彼女から視線をずらした。
そんな神田を見ながら、自分には彼女に会う資格なんてない事を考えていた。彼女に会える訳無いじゃないですか。僕は彼女に一生癒えない傷を追わせてしまったんですよ?イノセンスで僕は彼女を切り裂いた。一度なんかではない。二度も三度も、何度も何度もだ。
そして、目が見えなくなるという怖い経験だってさせた。恐怖の対象であるそんな僕が、彼女に会えるなんて思えない。会って良いなんて思わない。
怯えさせているのは自分なんだ。会いたいと願ったことはあったけれど、それはいけないことだと自分でも分かっている。だから、行くことは出来ない。
それに、今は僕がダメだ。
彼女が生きていると分かって、喜んで、ほっとして、こんな、ボロボロに涙を流している姿なんて、目の見えている彼女に見せるわけには行かない。見せられない。
「…それじゃ」
神田に言葉をかけられるより早く袖で涙を拭き、そのまま背中で喜びの声を聞きながら逃げるようにその場を後にした。
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