□明ける
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玲子の周りに駆け寄り、リナリーは一番に抱き着いた。


「良かった…!本当に良かったよぉ!!玲子の馬鹿ァア!」


ぎゅうっときつく抱き着くリナリーに、玲子は痛みと首を締められる苦しみで顔を歪ませた。それでも緩まないリナリーの腕。わずかに震えていた。

それにそっと触れて、ごめんねと囁いた。

そしてようやく腕の力を緩ませたリナリーは、玲子の肩に顔を埋めた。


あの、玲子が死んだときの体温を思い出す。
冷たくて、固い、生きているときの温かさはどこへ行ってしまったのか分からなくなる。

その冷たい身体に恐怖を覚えた。人が死ぬ瞬間を、この手で感じた。その恐怖が今も抜けない。震える手で嗚咽を抑えて、涙も堪えた。でもこぼれ落ちる涙は止まらなかった。

大好きな人との別れが、辛いなんて事は知っていたはずなのに、なのに知らなかった。
震えは止まらない。涙も止まらない。
足の力が抜けて、崩れ落ちそうになるのを何度も堪えた。



『リナリー…』



でも、でも

優しく頭を撫でてくれて、玲子にしがみつくようにして俯き涙を流す私に、いつもの声を聞かせてくれた。

泣き顔は、玲子は好きじゃない。
だから涙は見せたくなかった。それなのに、涙は溢れて止まらない。その声が、体温が、すごく懐かしく感じてまた涙が流れた。




あの固い手の感触、冷たい体温じゃなくて、ほのかに温かい、人の温もり。恐怖していた温度が、今は優しさに変わっていた。



「玲子…ごめんね…っ!」


わっと泣きつき、謝る。首に腕を回して抱き着く。温かい玲子の体温。それを感じてまた涙が流れた。


「…ごめんなさい…っ」


あなたのこと、もっと気にかけていればよかったのに。
そう泣きながら言えば、玲子はふるふると首を振る。


人は誰しも万能なんかじゃない。悩むこともあれば、周りに目が行かなくなる事だってある。だって人間だもの。神様じゃなければ、そんな完璧な人などいやしない。だから、気にしなくていいんだ。


そう言ってくれた。ぐすぐす泣きながら玲子の顔を見れば、微笑みを向けてくれた。


『ありがとう、リナリー』


玲子はリナリーの頬に触れて、親指でその涙を拭いた。
泣かないでと言う玲子に、今度こそ涙は流してはいけない。
玲子が望むなら、私は笑うよ。



「おかえり…!」



涙を拭い、そして精一杯笑顔を玲子に向けた。


『…やっぱり、リナリーは笑った方が可愛い』


泣くのは勿体ないから。と、口説き文句のような言葉でも、リナリーはそれすらも嬉しい事で、えへへと笑った。


「玲子…」


お帰りなさい。
それを言えば、驚いた顔をして一瞬固まった。けれど次には微笑して照れ臭そうに「ただいま」といった。




「…ちょ、…と…」


泣き止むリナリーの後ろにいたラビ。ラビは二人を見て、手が震えた。後ろから聞こえた声に、どうしたのか、とリナリーは振り返りラビの様子を伺う。


「玲子……」


驚きで震えるラビは、がっと玲子の肩を掴んで顔を近づけた。


「ちょっ…ラビ!」

『…な、何っ?』

「お前…っ!」


こんな所で何をするのだとリナリーはラビを止めようとした。
だがラビは止めるリナリーを宥めるともう一度玲子に向き合う形をとった。




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