story

□見えないイト
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―――…「今日」は違うことが起きたわ。


確かこの後私は馬車に泥水をかけられて家に帰って寝るハズなのよ。


今日は「今日」じゃなかったの?

















「たぶんね、たぶんあると思うんだよねイノセンス」


机に顎をくっつけてけだるそうに言うコムイ。


「といってもたぶんだからね、たぶん。期待しないでね、たぶんだから。
絶対じゃなくてたぶんだから。
でもまぁたぶんあるんじゃないかなーってねたぶん」

「わかりましたよ、たぶんはι」


科学班にあった書物が崩れて人が埋まった。

まるで生き地獄。

いつもよりかなりやる気なさそうにコムイは任務を説明していく。


顔を本で隠して、疲れたため息を残して説明は終わった。



アレンとリナリーはその後任務に向かった。


今回の任務の地「巻き戻しの街」。


「今回の任務には玲子は来ないんですかね?」

「さあ、わからないわ。兄さんは玲子に話す事が沢山あるからって言ってたけど…」

「話す事?」

「うん。詳しくは教えてくれなかったからわからないけど」


リナリーはティムキャンピーを指にとまらせて考え込んだ。


「…何してるのかしらね、玲子」








『…っくしゅん!』


ぶるっと背筋に寒気を感じた。


「あれ、風邪かい?」

『いえ、…はあ』


ズッと鼻を啜って玲子はソファに座る。

正面にはコムイが居て浮かない顔をして玲子に書類を手渡した。


玲子は苦笑しながら書類を受け取る。


「…本当ならまだ任務には行って欲しく無いんだけどね…」

『そうもいきませんよ、あたしはエクソシストですから』


表紙をめくり、書かれた文字に目を通し奇怪、場所、時間を確認する。


『ここに行けば良いんですね?』

「うん。急ぎじゃないし、列車にもまだ時間があるから暇潰しに新しくなったイノセンスの特訓でもしていったら?」

『え?でも』

「慣れたからといって油断してると大変な事になるから、だめ」


やっていきなさい、とコムイはぴしゃりと言って返した。


「君のイノセンスは君の思いのままに動くけど、同化は体に負担がかかる。そのためにそれをあげたんじゃないか」


コムイは玲子が手にしている包みを指さした。


「それに慣れてから行きなさい。今なら修練場は誰も使ってないだろうから」

『…はぁい』


渋々コムイの言うことを了承した玲子はトタトタと科学班から姿を消していった。





「……大丈夫、ですかね…玲子」


玲子がいなくなった後、ポツリと呟いたリーバーの声にコムイは露骨に反応した。


「なになに〜?リーバー君、玲子ちゃんが心配〜?」


ニヤニヤとからかい半分でリーバーの顔をのぞき込む。

だがリーバーは至極真面目な顔付きで返した。


「当たり前じゃないですか。玲子は狙われてるんですよ?」


アクマだけではなく千年伯爵からにも。


本来なら行かせるべきでは無かったんだ。


「本来なら、ここに留めておくべきですよ」


いくら玲子が行くと言ったとしても、力ずくで留めておくべきだ。


彼女を守るためなのだから。



「またまたぁ〜。そんな事言っちゃって本当は玲子ちゃんに側に居て欲しいだけなんじゃ無いの〜?」


コムイはまたからかい目でリーバーを見遣る。


ふざけて覗き込んだのがいけなかったのだろう。




リーバーの顔は真っ赤。




「…え…、リーバー、君?」




…まさか




コムイは嫌な汗が流れて仕方ない。



本気、で…?



「…リーバー君もしかして玲子ちゃんのこと…」

「ちっ違います!!!!」


コムイの言う事が予測できたリーバーは即、全力で否定した。


だが、その必死の否定はコムイにとって是、と同様に聞こえてしまった。



「(…嘘、でしょ…?)」



変に気が焦る。


きっと、リーバー君は玲子ちゃんが、
…玲子ちゃんの事を想ってるんだ…。


だとしたら、困る。





――…困る?




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