story

□見えないイト
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驚く暇も無く時計の秒針は逆に戻り始め、勢いよく外の時間がミランダの時計に飲まれていく。



「!今日の時間を吸ってるのか…」



全ての時間を吸い時計はコチ、と音を立て7時を指して止まった。


窓から眩しい光が差し込んで来た。


「朝ぁ〜!!?」


振り返って外を見れば、眩しいくらいの朝日。


朗らかに鳥が鳴いている。


そこに、今あるはずの無い影と声が降ってきた。





『やほー。アレン、リナリー』



後ろから聞き慣れた明るい声。


「……っ玲子さん!!?」

『オハヨー?』

「…な、なんでここに…?」

『ん?時間に乗って来た♪』



楽しかったよ?と笑顔でいう玲子の後ろに、いつの間にかベッドに入っていた事に驚いているミランダがいた。


二人はア然と驚くしかなかった。










――…34回目の10月9日




『はーい、いらっしゃい、いらっしゃー―い』

「ピーテル劇場のホラー演劇「カボチャと魔女」は本日公演〜ん♪」

「チケットはいかがですか〜?」


ミランダのバイトを手伝い、一緒にチケットの販売をするアレン、ミランダ、玲子。


どうにかしてミランダのマイナスパワーをプラスに向けようと必死だった。


『(バイトを始めて早5件、か…ι)』


これはもはや才能と言っても過言でも無いかな。


そう思ってしまう程の失業率。


凄すぎて笑う気力もないけどね…。


玲子、少し打ちひしがれてみる。



「いやぁー!カボチャと魔女見たいー!!」


ビラ配りをし、そろそろ休憩の時間になりかかったとき、女の子の声が聞こえた。


「ダメでしょ?今日はお稽古があるんだから…」

「やだやだやだー!!」


小さな女の子は駄々をこねて半ベソになり、手足をじたばたさせている。


「いー―やー―だー―!!!!」

「もう、この子ったら…」


そんな自分の子供に困り果てている母親。


『こらこら、お嬢ちゃん。お母さんを困らせちゃダメだろう?』

「ふぇ?」


玲子は泣きそうになっていた女の子と同じ目線になるよう、片膝を着いた。


『公演は今日だけじゃないんだから、また今度おいで。ね?』


玲子は優しく微笑みかけてあげると女の子は小さく頷き、うっすらと頬を染めた。


「…分かった」

『ん、いい子だね』


よしよしと頭を撫でると余計に顔を赤くする。


「…お、お兄ちゃん!お稽古受けて時間が出来たら、ここに来てもいい?」

『いいよ。またおいで(…お兄ちゃん、かーι)』

「本当に!?ありがとぉ!」

「すみませんウチの子がご迷惑を…」


母親は申し訳なさそうに頭を下げた。


玲子はいえ、と首を横に振った。


『気にしないでください。それでは、また来て下さいね。
…待ってますから』


にこりと微笑んでみると今度は母親の方が頬を染めた。


「…はっ、はい!必ず来ます…!!」


玲子の手をしっかりと握り瞳を輝かせていた。


『あ、ありがとうございますι』


王子スマイルならぬ玲子スマイルをその親子に向けて小さくなっていくのを見送った。



「……マダムキラー…」


隣で一部始終を見ていたアレンはぼそりと呟いた。






休憩時間になったアレンと玲子。


裏路地に入り、段差に腰掛ける三人。


「凄かったわ玲子。剣舞が特に」

「何かやってたんですか?」

玲子の剣さばきはとても綺麗だった。

それに舞いが加わってより一層美しかった。


アレンはそんな玲子を隣に、何度か玉から落ちそうになっていたのだ。


『特になにも…(部活の勧誘以外は)』


そこまでいうと玲子は嫌な記憶が蘇ってしまった。


部活の勧誘に追われ、女の子に追われ、毎日へとへとになっていた事を思い出した。


思い出すだけでも恐ろしい。


そんな経験が今日役に立つなんて、なんて皮肉なのだろう。


顔を引き攣らせていた玲子。


そしてお互いの幼い頃の話をして談笑しあった。





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