story

□見えないイト
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「…あいつは…」


小さく口を開き話し出す。


コムイは自然とリーバーの方に目が行った。


「…あいつは、今自分がどれだけ危険な身かって事、…理解してません」



ぎりっというリーバーの歯軋りの音がやけに響いた。


何もしてやれない自分を攻めているように虚しく響いていた。



―…あいつは知らない。



これから飛び込んで行く先にあるものを。


どれだけ危険な事かっていうことも。


絶対あいつは分かっていない。


危険だ、危ない。


それだけじゃ済まされない。



殺されてしまうかもしれないというのに。



「…止めるべきだったんだ…」



今出ていくのは危険だって。


せめてもう少し、もう少し後だったらよかったのに。



「…―無理だよ」

「…え?」



玲子ちゃんを止めるなんて、無理だよ。


だってあの子はそういう子。


人の為に、自分の身を削っていく子だもの。


失踪したあの時、帰ろうと思えば帰って来れたのに帰って来なかった。


それは仲間を思っての事。


狂い始めて、夢と現実との境目が分からなくなるまで不眠になって、傷付けまいと自分自身に恐れて。


仲間の為に泣いて、アクマの為に泣いて。



そんな優しい子を、今更止められると思う?



「…止められるなら、とっくに止めてるよ…」


僕だって、行って欲しくなかったんだから。



「…室、長…」

「彼女は、…玲子ちゃんは止まらないよ」


僕らを思って戦うあの子を、僕らが止めるなんておかしいんだから。


僕らには彼女を止める術なんか、無いんだ。



「それはリーバー君だって知ってるだろう?」



哀れむような、悲しい顔でコムイはリーバーから視線を外した。



「…僕は、僕で……室長だからね…」



リーバー君みたいに、表に感情を出す事は出来ないんだ。


自由な君が羨ましいよ…。


ゆっくりと、視線が床へと下がっていく。



「…だから、室長は玲子に信頼されてるんスよ…」


床の模様がコムイの目に写っていた中、リーバーの声だけが耳に入った。


「信、頼?」

「そうっすよ」


気付いていないかもしれない。


けど玲子はあなたを信頼しています。


俺達より先にあなたへ報告しに行くそれがなによりの証拠。


苦しいくらいの玲子の優しさを知るのは、いつもあなたの口から。



俺は、室長が羨ましい。




側に居ることが出来なくて、側で守ってやれることも出来なくて、ただ報告を待つ事だけしか出来ないけれど。


遠くで見守ることは出来るから。



((だから、負けたくない))




「…絶対、死なせるもんか」

「向こうに、伯爵なんかに…」



「「玲子を渡すものか」」















『…ックシュン!!…風邪かなぁ?』


本日二度目のくしゃみに玲子は鼻を啜る。


修練場にたどり着いていた玲子。


気を取り直し、イノセンスを発動させ神経を集中させた。


『…あ、そうだ、』


何か思い出し、弾かれたように頭を上げた。


『コレしないとコムイさんに怒られる』


アクマのウイルスが侵食しないようにと渡されたもの。


包みから中身を取り出しまじまじと見てみる。


一見、普通のアレだ。


『…手甲付き手袋(グローブ)』


同化するときはその手甲の部分に同化させるようにと言われた。


シュッと手を通してみるとなかなか良い付け心地。


『――…よし』


玲子は再度イノセンスを集中させた。


脈打つように手の甲が熱い。


クナイを手甲部に当て、更に強く集中する。


同化を始めるとバチッと激しい音が鳴った。


『……よし、OK』


ちゃんと同化が出来ればきっと


『伸縮も自在、だね』


この間知ったのだが、この同化は本当に玲子の思うままに動く。


ラビの槌のように伸びたり縮んだり、あわよくば複数の刃を造ることも出来る。


万能という言葉が適当だった。



次はイノセンス自身の力。





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