□別れの儀式
1ページ/6ページ






彼女が、目を閉じてからどれくらい時間が流れたのだろう。時間という存在すら忘れてしまうほど、ぼーっと立ち尽くしたままだった。

今この時間は何をあわらしている?ここに立ち尽くす僕らは何を考えて、何を思ってここにいる?そんなことすら分からなくなる。

ショックを受けたのは僕だけじゃない。リナリーやラビ、神田だってこの事を受け入れたくないという気持ちでいっぱいだ。

目の前の道は、突然途絶えてしまった。

目の前で眠るヒト。
この人は、誰だっただろうか。


「このヒトは…」


焦点が合わない瞳で訴えた。この人が誰なのか、教えてほしくて。


「…アレン…」


痛々しいものを見るように視線を送ってきたのはラビだった。


「ラビ、この人は…?」
「アレン、しっかりしろ!」


ぼんやりと呟くアレンの肩をラビは両手で掴んだ。ガクガクと揺らしてみても、アレンは正気に戻るようには見えない。


「…僕、知らない。誰…?」
「アレン…っ!」


ラビの事さえ瞳に写していないようだ。何かの暗示にかかったかのように、周りにあるものを否定するアレン。
ラビは、正気に戻させようと声をかけるがアレンからの反応はない。
それを見兼ねたのか、神田が近くまで来ていた。

神田はラビに「退け」と半ば力付くでアレンから引きはがすと、片手を高らかに上げそして振り下ろした。

バシンッ、と乾いた音が辺りに響く。

思い切り平手をかました神田。それを受けたアレンは後ろへよろりと下がる。打たれた衝撃の強い頬を自分の手で覆い、神田を睨みつけた。


「…何するんですか」


そのアレンを見て神田はふんと鼻を鳴らした。


「てめぇが放けてるからだ。ちったぁ正気に戻ったかバカモヤシ」


そういう神田の声はいつもと変わらず平淡としている。けれど表情はイラついている。


「誰ですか、じゃねぇよ」


よく見ろと促され、そこをまた見る。

箱の中で眠る人。
目をつむり、瞳は見えない。
色は寒そうな白色で、
とても固そうに見えた。


「…っ」


よく見ろといわれて、よく見て、そして逸らした。
見たら苦しくなる。
拒否したくなる。
受け入れたくないんだ。

だってこの人は、今までで一番僕が知っている人じゃないから。
僕が知ってるのは、もっと温かな…。


「…玲子さん…」


こんな冷たくなった人なんて、知らない。知りたくないのに。

現実からは逃げられない。
受け入れたくないのに、こんな事あってほしくなかったのに


「…玲子さんっ!」


ぎゅっと拳を握り締めて、歯を食いしばって涙を堪えようとした。けれどその行為は無意味に終わって、大粒の涙が次々と零れた。

声を上げて泣いて、悲しいのは自分だけじゃないのに泣いて泣いて。悔しさばかりが込み上げて来る。

話せなかった。
謝れなかった。
触れられなかった。

悲しいのは自分だけじゃない。ラビも神田もリナリーも、皆悲しい。


大切な人が死んでしまった。


アレンはわあわあ泣いて、ラビは歯を食いしばって涙を堪えてる。神田は拳を握り締め、静かに、震えていた。その震えは悲しみからか悔しさからなのかは読み取れなかった。


そして最後の挨拶。

静かに献花が添えられていった。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ