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□別れの儀式
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彼女が、目を閉じてからどれくらい時間が流れたのだろう。時間という存在すら忘れてしまうほど、ぼーっと立ち尽くしたままだった。
今この時間は何をあわらしている?ここに立ち尽くす僕らは何を考えて、何を思ってここにいる?そんなことすら分からなくなる。
ショックを受けたのは僕だけじゃない。リナリーやラビ、神田だってこの事を受け入れたくないという気持ちでいっぱいだ。
目の前の道は、突然途絶えてしまった。
目の前で眠るヒト。
この人は、誰だっただろうか。
「このヒトは…」
焦点が合わない瞳で訴えた。この人が誰なのか、教えてほしくて。
「…アレン…」
痛々しいものを見るように視線を送ってきたのはラビだった。
「ラビ、この人は…?」
「アレン、しっかりしろ!」
ぼんやりと呟くアレンの肩をラビは両手で掴んだ。ガクガクと揺らしてみても、アレンは正気に戻るようには見えない。
「…僕、知らない。誰…?」
「アレン…っ!」
ラビの事さえ瞳に写していないようだ。何かの暗示にかかったかのように、周りにあるものを否定するアレン。
ラビは、正気に戻させようと声をかけるがアレンからの反応はない。
それを見兼ねたのか、神田が近くまで来ていた。
神田はラビに「退け」と半ば力付くでアレンから引きはがすと、片手を高らかに上げそして振り下ろした。
バシンッ、と乾いた音が辺りに響く。
思い切り平手をかました神田。それを受けたアレンは後ろへよろりと下がる。打たれた衝撃の強い頬を自分の手で覆い、神田を睨みつけた。
「…何するんですか」
そのアレンを見て神田はふんと鼻を鳴らした。
「てめぇが放けてるからだ。ちったぁ正気に戻ったかバカモヤシ」
そういう神田の声はいつもと変わらず平淡としている。けれど表情はイラついている。
「誰ですか、じゃねぇよ」
よく見ろと促され、そこをまた見る。
箱の中で眠る人。
目をつむり、瞳は見えない。
色は寒そうな白色で、
とても固そうに見えた。
「…っ」
よく見ろといわれて、よく見て、そして逸らした。
見たら苦しくなる。
拒否したくなる。
受け入れたくないんだ。
だってこの人は、今までで一番僕が知っている人じゃないから。
僕が知ってるのは、もっと温かな…。
「…玲子さん…」
こんな冷たくなった人なんて、知らない。知りたくないのに。
現実からは逃げられない。
受け入れたくないのに、こんな事あってほしくなかったのに
「…玲子さんっ!」
ぎゅっと拳を握り締めて、歯を食いしばって涙を堪えようとした。けれどその行為は無意味に終わって、大粒の涙が次々と零れた。
声を上げて泣いて、悲しいのは自分だけじゃないのに泣いて泣いて。悔しさばかりが込み上げて来る。
話せなかった。
謝れなかった。
触れられなかった。
悲しいのは自分だけじゃない。ラビも神田もリナリーも、皆悲しい。
大切な人が死んでしまった。
アレンはわあわあ泣いて、ラビは歯を食いしばって涙を堪えてる。神田は拳を握り締め、静かに、震えていた。その震えは悲しみからか悔しさからなのかは読み取れなかった。
そして最後の挨拶。
静かに献花が添えられていった。
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