□別れの儀式
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教団の掟は、原則として火葬でとされている。誰にも知らされず教団の中での事として済まされる。そしてその後にどうなるかは分からない。

孤独な最期だと人々は言う。それは玲子も例外にではない。

ただ、彼女を知る仲間だけは忘れないだろう。ここに彼女が居たことを。一緒に仲間として、また家族として過ごしたことは誰も忘れはしない。


棺が用意され、その中にゆっくりと入れられている。血の通わない肌は赤みが少なく見たことがない色となっている。

それをカバーするかのように少し薄めの化粧が施されていた。それは彼女が日本人だからかはわからない。

黒い棺が一つ置かれる。儀式として、棺は明けられ献花が添えられていく。一人一人が玲子の棺へ近寄り「お疲れ様」と去っていく。

胸の上で手を組まされ、静かに目を閉じている。こういう形を取っている玲子を見て、恐怖を覚えた。理由は分からない。

いや、分からないのではなく、分かってしまったから怖いのだ。

胸の上で手を組まされる。

亡くなってしまった人がされる格好だからだ。その形を見て再度確認させられたから怖かったのだ。


もうこの人は

目を開ける事はないのだと。


それがショックで、受け入れたくなくて、目を背ける。

どこかで願っている。
お願いだから目を開けて。
起き上がって。
話して、と。

しかしその願いを打ち砕くように、彼女の異常なまでに冷たい肌が証明している。


“私はもう目覚める事はない”


そう語っているように感じられた。

固く閉ざされた瞳は何も語らず静かにあるまま。だから否定したいんだ。彼女がそういうふうに寡黙に語るなら、僕らにだって言いたい事がある。

貴方はまだ起きられます。
目を覚まそうとしていないだけです。
僕らの願いを聞き入れて、その身体を起こしてください。
生きるのを諦めないで。
生と死の壁を作るのは止めて、起き上がってよ。


「…お願いだから…」


お願いだから、起きてよ…。




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