□別れの儀式
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血まみれじゃ、可哀相だろ。






その言葉は、すぐに理解できた。

柩が用意され、花に埋もれる。
一人ずつ、順々に献花を添えていく。胸の上で手を組み、柩の中で静かに眠っている。


「玲子…」


血を綺麗に拭き取られた玲子。その頬に触れ、ひと撫でするリナリー。


「…ごめん…ごめんね…っ」


苦しんでいるときに何も出来ないで、助けてあげることも出来なかった。どれだけ苦しんでいるか、それさえ聞いてあげる事もできず、一人で抱え込ませてしまった。

大切な仲間なら、友達なら、思い悩んでいる時聞いてあげれば良かった。自分のトラウマばかり気にしてしまって、余裕が無かったのは事実。でも、思考を変えようと思えば変えられた。

自分の事ばかりで、ごめんなさい。自分の事ばかり精一杯になっていて、本当にごめんなさい。


「…うっ…」


零れた涙は玲子の頬を伝った。
柩に花が入れられていく。その光景を見ていて、自分らの無力さを知った。一人の人の命を救う事さえ、出来ないなんて。
やはり自分達は破壊者なのだということが冷たくのしかかった。


「…何やってたんだろうな。俺ら」


そうつぶやくラビの隣に、神田は静かに花に埋もれる玲子を見ていた。静かに悔しさを握り締めながら。


「なあ、ユウ…」


言いかけた言葉は飲み込んで、何でもないと掻き消した。言いかけた言葉は、「何のために戦ってきたのだろう」というものだった。

守ると豪語した自分。しかし結局苦しんでいるときに側に居てやる事くらいしか出来なかった。アクマ化を止めることも、ダークマターを取り除く方法を探すことも、どちらも出来なかった。

それが出来なくて、何が守る、だ。
自分の出来ることなど、最初から無かったんだ。無いことに気付かず、自信満々に守ると言ったのだ。
なんて滑稽なんだろう。


「くそっ…」


ラビはくしゃりと前髪を掻き分け、そのはずみでラビのバンダナは床へ落ちた。

神田は、玲子のアクマ化を知り、少なくとも困惑していた。今までどう接していたのか分からなくなったのだ。距離を置き、少し頭が冷えてからまた、普通に話せたらと思っていた。

だが、今ではそれさえも叶わない。

眠っているのか、死んでいるのか顔を見ただけでは分からない。今にも起きてきそうな気がして、現実を認めようとしていない自分がいるのが分かった。


「…信じたくない、か…」


どこまで思考が麻痺しているのだろう。こんなこと、教団にいるなら当たり前なこと。自分もそれを覚悟をしただろうに。

仲間が死ぬ。それは何度も見ていたはず。慣れた。はずだったのに。なんで受け入れようとしないのだろう。自分のココロは今どこにある?

今はただ呆然と花に埋もれていくその光景を見ているだけだった。




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