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□閉ざされた瞳
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静かな空間で自分の考えをまとめていくクロス。
そしてたどり着いた結論。
どんなに考えても、ルベリエにあれを見られてしまった以上、得策だというものが浮かばなかった。
タバコを灰皿の底にグリグリと押し付け火を消し、窓の外を眺めた。
「…潮時か」
そう一人ごち、重たそうに腰を上げた。
眠る玲子。周りは静かに時間が過ぎていた。
時折、暇を見つけて見舞いに来る人も居たが、その数は知れていた。
アクマ化したという噂は瞬く間に広がり、レベル4を笑いながら攻撃していた、と玲子を恐怖の目で見るようになった人が多くなった。
夢の中に落ちている玲子に、一人見舞いにやって来た人がいた。
まだ眠っている玲子の姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
「…よかった」
リナリーは見舞い用に持ってきた花を小さな花瓶に生け、まだ起きない玲子のベッドに腰掛けた。リナリーはサラリと玲子の少し伸びた前髪を分ける。
額を見て、またホッとする。
「(ペンタクル、無くなってる…)」
レベル4を破壊し、力が暴走した時の玲子の額にはペンタクルがあった。今はその暴走が収まり、落ち着いているのだろう。
一晩空けても、まだ慌ただしく騒がしい教団。玲子の寝顔を見たリナリーは、また来るからね、と小さく呟きその部屋から出て行った。
リナリーはそのあと、誰かがその部屋に入ったことは知らなかった。
慌ただしく、しかし機能を取り戻そうとあくせく働く教団の人々。
コムイもその一人のうちだった。ふう、とようやくできた短い休息に、椅子の背もたれへもたれる。
「コムイ」
名を呼ばれ、また仕事かと思いながら顔を上げる。そこにいたのは予想外であり、予想通りの人物がいた。
「クロス元帥…」
「調子は良いみたいだな」
調子がいいわけではない。クロスの皮肉に対してお蔭さまで、と苦笑を浮かべるコムイ。ただ、クロスがここに来た理由をまだ聞いていない。
「用件は何です?」
美味い酒とお金はありませんからね、と言う。だが、クロスはそんなもん、はなから期待してないと言った。
ちょっと来い、と促され、そして別の部屋に案内された。そう距離のない部屋に通される。薄暗い部屋の片隅に、木製の椅子に腰掛けている人物がいた。
「? 玲子ちゃん?」
その部屋にいたのは、今は寝ているはずの玲子だった。うなだれているようだった玲子は体を起こし、寝起きなのかぼーっとしていた。
「心は決まったか?」
クロスが何やら玲子聞き、玲子は小さく頷いた。顔色は優れていない。焦点の合わないその瞳は生気が薄いように見られた。
何の事だか分からないコムイ。クロスはコムイに、ルベリエと元帥、地位の高い者達を連れて来るように言う。
訳の分からないコムイだが、クロスがそういうなら従うしかない。無線を使い、各々に詳細は不明だが部屋の場所を伝え直ちに来てほしいと言うことを伝えた。
そう時間を掛けることなくその部屋にルベリエ、元帥達が集まった。ルベリエは眉を寄せながら玲子を睨みつけている。集まったことを確認すると、ようやくクロスが口を開いた。
「結論から言う」
クロスの声に、玲子はぎゅっと拳を握った。怯えるような仕種をする玲子にコムイは首を傾げた。
「…玲子?」
再び尋ねてきたリナリーは、誰も居ないその部屋を見て呆然と立ち尽くしていた。居ない、ということを理解するのに少し時間がかかった。そして弾かれたように走り出した。
いない。
その事実だけで不安はさらに膨れ上がった。走り出したリナリーは、玲子を探した。
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