2
□閉ざされた瞳
4ページ/5ページ
「…いやぁぁぁああああ!!!」
貫いた剣を引き抜き、剣に滴る血液。ほとばしる血液はパタパタと床へ打ち付け跡を作る。
剣が引き抜かれると同時に玲子は倒れる。ドサリと崩れ落ちた身体からは、血液の円が徐々に広がっていく。
「いやぁあっ!玲子!!」
駆け寄るリナリー。それを止める人は誰もいなかった。
リナリーが玲子に近付くのを見て、はっと我に返った。目の前の事を理解しないうちに、反射で体が動く。
見てる場合じゃない。
「玲子…っ!」
「玲子さん!!」
玲子を抱き起こすリナリーと、その処刑台に集まるアレン達。
まだ息はあるか。希望を持ちつつそれを見に行った。生きていてほしい。かろうじて、生きていてほしいと願う。
だが、
「…ッ」
玲子を抱き抱えたリナリーは、気付いてしまった。
死ん、でる。
ことり、と静かに落ちた手。まだ温かいのに、ひどく冷たく感じる。それは、生きている感触ではなかった。
呼吸も、脈も、全ての時間が止まっていた。
「そんな―…っ!」
嘘だ…。
嘘だ!
「うわぁぁぁあああああ!!」
嘘だと言って。
こんなこと、真実にしないで。
お願いだから、返して…!
「どうして…どうして玲子が処刑されなきゃいけないの!?どうして殺されなきゃいけないの!!」
仲間思いの、優しい人。
「…他にも、手があったかもしれないのに…っ!」
もう、戻らない。
返事も、なにもない。
段々と体温が抜けていく。
力のない身体はずしりと重い。
「…冗談、キツイさ…」
誰もがこの事を受け入れようとしたくはなかった。アレンも神田も、ラビも、皆。
なんで、とアレンは疑問ばかり浮かんで来る。アクマ化は確かに危険だ。だからといって、他に方法がなかったのだろうか。必死に探せば、あったかもしれないのに。
しかしこの出血では、生きることは困難だろう。きっと致死量に達しているにちがいない。
「…これで満足か、ルベリエ」
台から降り、ルベリエに近付くクロス。
「ええ」
危害を及ぼす者がいなくなり、ルベリエはスッキリしたのだろうか。すれ違うクロスに「お疲れ様」と言いその場を後にした。
クロスはルベリエの背中を横目に見ると、台の上で泣くリナリーから玲子を離した。
「血で汚れる」
リナリーはそんなのどうだっていい、と首を横に降った。クロスは冷静に離れろとリナリーの腕を掴んだ。
「いや…っ!」
「離れろ。そいつの血が何なのか、知ってるだろ」
アクマの血を持っている。感染する可能性がないわけではない。血が皮膚を経由して感染するかもしれない。
クロスは無理矢理リナリーを玲子から引き離す。それに抵抗するリナリー。しかし、それは叶わなかった。
「コムイ、コイツを」
「…わかりました」
クロスに命令されるコムイは、玲子を担架に乗せどこかへ運んでいく。
「何する気?!」
慌ててコムイを止めに行くリナリー。下を向いて唇を噛み締めているコムイの変わりに、クロスが言った。
「拭いてやるんだよ」
血まみれじゃ、可哀相だろ。
その言葉は、真意を知るには分かりやす過ぎた。
.