□閉ざされた瞳
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走りながらリナリーは思っていた。今の自分は過去の自分と変わらないということを。あの頃の自分は、世界が欠けたことを気が狂うほど悲しんだ。
篭ったきりのリナリーに、ごめんねと言って再び姿を現してくれた玲子。

あの頃からずっと玲子に甘えていた。世界が欠けることを恐れている自分に、いつも優しく隣に居てくれた。

その人が、今居ない。


「…どこっ…どこに行ったの?」


泣きそうになりながら、走って探した。
兄の姿も見えないため、もしかしたら一緒にいるかもしれないと考え、コムイの目撃情報も集めながら教団を回った。

誰かが今は使われていない小部屋に入って行ったのを見た、というのを聞き、リナリーはそこへ向かった。だがその部屋には既に誰もおらず、人の気配など何処にもなかった。
踵を返し、また探しに回ろうと部屋を出た瞬間、誰かにぶつかった。


「…ラビ」

「どした?リナリー、そんなに慌てて」


体勢を崩しかけたリナリーを支えるラビ。


「…ラビ、あのね」


ラビは知っているだろうか。リナリーはラビに玲子の事を聞こうと思った。その時、ゴーレムに無線が入った。それはどうやらラビも同じだったようだ。


「この無線、エクソシスト全員に入ってるのかな」

「かもな」


無線の声は兄の、コムイの声だった。指定された集合場所に、エクソシストは集まる。もちろんリナリーとラビもだ。途中からアレンや神田とも合流した。

その場には、エクソシストのほか、科学班やファインダーなどレベル4と関わった形跡のある人物が集められていた。人が集まる中心らしき所には、台のようなものが設置されていた。


「一体何なんだ」


内容が明らかにされていない呼び出しに、いらつきを出してしまう神田。そこは押さえてと宥めるリナリーだが、その手は震えていた。


「? どうしたんですかリナリー」

「…え?」

「震えてますよ」


リナリーの手を指差しながら顔色を伺うアレン。リナリーはその手を握り締め震えを止まらせる。


「何でもないの」


心配ばかりかけてはいけない。
そろそろ皆集まった頃だろうか、周りは落ち着かずざわざわとし始めていた。


そこに、調度現れた元帥達。コムイも一緒だった。辺りは静まり返り、コムイの声に集中する。中央の台の周りにコムイ、元帥が囲うように立つ。
そして、その台の上に玲子が立たされた。腕は後ろに拘束されている。クロスが施した魔術の跡もある。玲子が暴れ出さないようにしたのだろう。


「玲子!?」


玲子の元へ駆け寄ろうとしたリナリーは、警備するものに止められてしまった。

何をする気なのだ。
不安と恐怖に、ドキドキして止まらない。リナリーの嫌な予感は増すばかりだった。

そんなリナリーを置いて、話は進んでいくばかりだった。コムイが声を発する。その声に皆が集中していた。





「…これより、

月宮玲子の処刑を始める」




スピーカーを通していなかったコムイの声は、なぜか耳にスッと入っていた。



「…な…に」


警備の人がもう少し下がるようにと促す。だが、コムイの言葉に硬直してしまっていたリナリーは動くことすらままならない。


「…に、さん?何言ってるの?」


リナリーが困惑しているその間にも玲子処刑への時間は刻々と近づいている。


「危険です下がってください」

「いやっ…、兄さん、兄さん!!止めさせて!!」


リナリーのその願い、コムイは拳を握り締めて堪えていた。





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