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□闇雲
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コムイを庇い神田は怪我を負った。深い傷も、神田のある能力で急速に治癒していく。
〈おいかけっこはおしまいですか「しつちょう」〉
コムイの元へ駆け寄るラビは神田と共にレベル4に向かって構えた。
「下がってていいんだぜ」
「またまた」
〈またまた♪〉
神田とラビを標的にしたレベル4は勢いよく向かっていく。イノセンスを持たない二人、神田とラビはレベル4にやられていた。
神田とラビがやられる。そう遠くない距離の所に玲子はその光景を察する。助けに行きたいと思い、足を踏むが、進もうとしなかった。
ゾクリとした。
ヘブラスカが攻撃され、レベル4は神田の胸倉を掴んでいるのを離す。ボロボロの仲間達。
レベル4が攻撃するたび、自分とは違うものが浮かび上がって来る。狂気に似たようなものが込み上げて来る。
だめだっ。
集中しないと、影の止血が解けてしまう。この影が、大勢の命を握っているんだ。集中しなくては。
そう思っているのに、
身体がゾクゾクする。
レベル4が現れ、人を危めて、その姿を見て笑っている自分。気持ちが歪んでいるのがわかる。
アクマ化しようとしている。
『だめだ…っ』
アクマ化しているヒマなんてない。イノセンスに集中しなくちゃ、人の命が…。
それでも、集中しようとしても自分の狂気を抑えるのが必死で出来ない。レベル4を破壊しなくちゃ、自我を保てないかもしれない。レベル4がいたら、攻撃する度に同調して、自分までアクマ化してしまうかもしれない。それこそ、いやだ。
アクマ化して人を襲うのはもういやだ。
助けたい。皆を
それなのに、自分は何も出来ない。なんて無力な存在なのだろう。自分を抑えるのに精一杯で何も出来ないなんて。
『…うぐっ!』
心臓が疼く。
何だか身体はザワザワする。
いやだ…。
この感覚、知ってる。
アクマ化しそうだ―…。
『…っ!!』
このレベル4がいなくなる前に自分が壊れてしまいそうだ。今にも人を襲いだしてしまいそうで怖い。止血のためにイノセンスを使っている今、ダークマターも強くなっていることには変わりない。
だったら、アクマ化する前に自分であのレベル4を破壊すればどうだろう。
破壊して、この心臓の疼きが収まったとしたら?もしかしたらアクマ化しなくて済むかもしれない。
イノセンスを使っている事には変わりない。その間ダークマターも比例して濃くなっているというなら、まだ、戦った方がマシだ。
少しでも役に立ってから、消える方がずっといい…。そうした方が、いい。
それに、あのレベル4を破壊したとしても、自分は恐らく人ではいられないだろうな。
誰もが恐れる、その対象になってしまっているだろう。怯えた目で見られ、忌み嫌われる。
それでもいい。もう何でも良い。助けたい。助けられるならそれでもいい。
ギュッと拳を握り締め、前を向いた。
見てて。
恐ろしい姿を。
足を進め、レベル4の元へ向かう。
「…玲子ちゃん…?」
コムイの声が聞こえた。振り返って微笑みを向けて、ごめんなさいと呟く。
「…玲子ちゃん?…何をする気だい!?」
『…コムイさん…』
自分は、もうここに居てはならない人間です。だからどうか、この姿をその瞳に写したら、恐怖で震え上がってほしい。教団に害を為す可能性の高いこのあたしを、仲間だと思わなくなってほしい。
ごめんなさい。そう長くは保てないみたいです。
ゆるゆると牙を剥くダークマター。それに飲まれていくのだから。
『…コムイさん。皆…』
ごめんなさい。
そうして玲子は影に血を零した。
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