□襲撃
1ページ/6ページ





明け方。朝とは思えないほど人がごった返していた。その理由は方舟の研究に勤しむ科学班。それから帰還したエクソシストを迎え活気づいた黒の教団の姿だった。

だが、喜ばしいことだけで人が多いわけでもなかった。とある疑いをもたれた噂は瞬く間に広がり、ざわめきをもたらしていた。



そんな教団の外にある森。そこに玲子は一人でいた。

昨日過ごした無駄な時間。取り返そうと思っても出来るわけが無い。無駄に悩んで苦しんだって、解決しない事はもう知っている。

弱音はもう沢山吐いた。吐き出してスッキリしたはず。だから、今度は頭をリセットして、冷静に、いつも通りに。


『…出来る訳無い』


せいっ!と拳を前に突き出した。今度は膝を、足を上げる。武術の型をこなしているようだった。

考えても分からない。誰かを頼りたいとは思うけど、何を話して良いのか分からない。

だから身体を動かし気分を紛らわせることにしたのだった。身体を動かしていれば余計なことは考えない。それに、下手に深読みして行動しなくても済む。

走り込んだり、型を確認したり、筋トレをしてみたり。引っ切り無しに動いている姿を見たら、周りからすればかなり意気込んでいるように見えるだろう。


『ふぅ…』


型を一通り終わらせ、教団内に戻ろうと踵を返した。急に振り返ったのがいけなかったのか、何かに額がぶつかった。油断し過ぎていたため、反動で跳ね返り尻餅を着きそうになった。
だが、それはとある人物によって支えられ回避できた。


「はじめまして」

『…?』


君のその型を見させていただきました。声からして男性だと思われる。でも、教団では聞いたことの無い声だった。

ハワード・リンク

初めて聞く名前だった。

そのリンクとかいう人は、中央から来た人らしい。挨拶を済ませると他に用があるようで、少し話して去って行った。


それから、また身体を少し動かしてから教団の中に戻った。シャワーを浴び、自室でゆっくりしようかと思ったが、落ち着かずその辺りをぶらぶらと歩いてみた。

そして、昨日のコムイの声を思い出した。



クロスから報告を受けたコムイは、玲子を呼び出し話しを始めた。イノセンスの事について、ダークマターについて、クロスから聞いたことを確認した。結果、コムイの憶測でこうたどり着いた。

玲子のイノセンス解放は、ダークマターの解放と深く関連している。もしかするとイノセンスを使えば、ダークマターはより一層玲子に深く干渉して来ることになるかもしれない。

コムイははっきり言った。何が起きても、玲子はイノセンスを使ってはならない。解明を急ぐから、どうかそれまで堪えてくれないだろうか、と。
アクマ化を進行させないためにも。大切な仲間を、失わないためにも。


「約束、してくれるかい?」


そう約束した。イノセンスを使わないと。
だから今、歩行をするにも前に物が無いか確認するために杖が必要になった。そのため、歩くスピードが落ちた。また、誰がどの辺りに居るのかも分からない。今まではイノセンスが道を印してくれていたので、迷うことなく足を進めて行けた。今は、前に進むことさえ怯えながら歩いている。

イノセンスがあるとないとでは全然気持ちの持ちようが違うのだなと、つくづく思う。この姿を見られてからもう、目が見えていないという事は隠しようがない。

アクマ化しなくて済む。でもその半面、イノセンスが使えない。


『…エクソシストとして、意味あるのかな…』


こんな爆弾みたいに恐れられる仲間がいるだろうか。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ