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□叫び
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目が覚めたのは、コムイさんの声が聞こえたから。
目が覚めたといっても、目が見えたわけではない。
相変わらず目は見えず、真っ暗なだけ。
…痛い。
鈍痛が身体を巡った。
でもそんな痛みはどうでもよかった。
モソモソとベッドから起き上がり、室内用の靴を履く。
「起きたのね」
でも貴方はまだ安静にしていなければならないの。婦長と呼ばれた人がそう言った。
でも、そんなことも関係ない。
『…傷は治りました…』
「だからってすぐ動き出すのは良くないわ」
身体に障るから寝ていなさい。と肩を押され再び眠れと言う。
違う。寝たいんじゃない。今、寝たくない。
『…外の空気、吸いたいんです…』
「ダメよ。途中で何かあったら大変だもの」
大人しくして、と言われた。
『…一時間だけ、…お願いします…』
「ダメよ」
ダメ、今はダメ。ここに居るときはダメ。外に出たい。少しでいいから、ほんの少しでいいから、一人になりたい。
『…お願いします…っ』
ここじゃダメなんだ。隣の病室にはリナリーもいるんでしょ?
なら、尚更ダメだ。
お願い…。
「…しょうがないわね…」
一時間だけよ?一時間たったら必ず戻って来ること。
それを条件に、この病室から出る許可を貰った。
『ありがとうございます…』
足早に、その病室から抜け出した。
「あんな顔されたら…」
婦長は逃げるように出ていく玲子の後ろ姿を複雑な顔をして見送った。
病室から抜け出て、誰かにぶつかった。でも振り返る余裕も、謝る声の余裕もなくて、少し頭を下げてまた走り出した。
「玲子ちゃん…?」
身長差がありすぎて、どんな顔をしていたのかは分からないけど、なんだか、気になる様子だった。
…傷が痛い。
走るから心臓がドクドクいってる。息も段々切れてきた。
でも後少しだから。後少しでたどり着く。時間は一時間しかないんだから、急がなきゃ…。
『…っ…ハァッ…ハァッ…』
多分また血が出てきてる。傷口がドクドク脈を打っているから。
でも急がなきゃ、もう少し、もう少し。
走りに走ってようやく着いた。
静かな森。
ここなら、きっと今は誰もいない。この時間は一時間しかないんだ。
『―――…っ!』
この時間でしたい事。
きっと婦長さんは気付いただろう。
『…ふっ…う…ッ!』
あたしは、泣きたかったんだって事。
*****
ぐるるるる。
クロウリーの腹の音が響く病室。寝るに寝られぬ状態だ。
「どこ行くんさ?ユウちゃん」
「こんな所で寝てられるか。自室に戻る」
師匠に止められながらもそれを押し切って自室に戻る神田。
アレンを誘って何か食べに行こうかとするラビだったが、アレンはどうやら食後だったようだ。
諦めて自分も自室に戻り、出来るだけ腹の減らない空間で寝ようと神田の後を追った。
「ユウ〜、途中まで行かね?」
神田がNOといっても着いていく気満々なラビ。珍しく「勝手にしろ」と言った神田には拍子抜けだった。
「あれ〜?神田くんにラビもどっか行くのかい?」
どこからともなく現れたコムイ。変な枕を片手にヒョコヒョコと歩いている。
「自室で寝る。奴の腹がうるさくて寝れん」
「あらら…」
不機嫌丸出しな神田に苦笑するコムイ。
「それよか、“も”ってどゆことさ?」
ラビはコムイにちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。
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