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□叫び
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玲子が泣き疲れて眠ってしまった時間と、神田がいなくなってからの時間。その間、ずっと座り続けていたラビ。
玲子はまたごめんね、と呟いた。
すっきりしたかと聞けば、少しだけ、としか返ってこなかった。それにラビは「そっか」とだけ返して、玲子の手を引き帰ろうと促す。
大人しくラビに手を引かれ病室まで歩いている途中だった。
「おい」
そう後ろから呼び止められた。
ラビが振り返り、その人物を確認する。
「調度良い。お前も来い」
そこにいたのは、クロス元帥だった。
玲子はまたビクリとした。なぜなら、アクマ化していたとはいえ、クロスを攻撃していた時の記憶は残っているからだ。その記憶が、クロスの声を聞いた途端蘇り、身体が硬直してしまった。
そんな様子などお構い無しに、クロスは二人の腕を掴んで人気の無いところまで連れて行く。
この辺でいいか、とクロスは二人の手を離した。
「アクマ化について話してもらおうか」
「元帥…」
「別に追放する気はさらさらねぇよ」
ただ、この前代未聞の異例をどうにかしなければならない。
中央も動き出した。このまま何も分からず、解決策も見つからなければ、恐らくそう遅くないうちに
「お前、教団に殺されるぞ」
裏切り可能性の高い兵など、教団には必要無いからな。教団、特に中央のものは、兵が一人いなくなるくらい平気でいるだろう。
「生き延びたければ言え」
生きるか死ぬか、今のお前にかかっているようなものだ。
教団に殺される。
その一言に足がすくみ、膝をつきそうになる玲子。ラビはふらふらとする玲子を支えた。
「…大丈夫か」
唇を噛んで震える身体を一生懸命に堪える。有り得ない話しじゃない。だからこそ、怖い。
『…っ』
恐怖で喉が潰れて、声が出せなかった。情けなくて、それが悔しかった。
でも、どんなに頑張って声を出そうとしても、やっぱり恐怖で震えて声が出なかった。
変わりにラビが話すと言い出し、クロスに自分の知る限りのアクマ化の詳細を話した。
それを知り、ようやく玲子の状態を知ったクロスは、やはり驚いていた。
大体の事は仮説として考えていたが、これ程までとは思ってもおらず、今だに信じられない。
生きた人間がアクマになるなど不可能だ。
それを可能にする体質の玲子。
前代未聞過ぎて、これに解決策があるのかさえ混乱した頭では考えられなくなる。
「…大体の事は分かった」
手間を取らせたな、と礼を言った後クロスは背を向け去ろうとする。そのクロスに、玲子は一生懸命に声を出そうとしていた。
『…あ、の…っ!』
潰れた声で、身体はラビに支えられ、弱々しい姿だった。
それでも、頑張って何かを伝えようとしている姿は、愛しさを覚える。
泣き腫らしたその目から、また涙が零れそうになっている。
クロスはフッ、と笑い玲子の頭をくしゃりと撫でた。
「言いたいことは分かったからよ…泣くな」
『…す、みませ…っ』
罪の意識を感じ、はらはらと涙を流した。
「お前の意思でやったわけじゃ無いことくらい分かってる。だから気にするな」
じゃあな、と再び背を向け、今度こそ二人の前からクロスは、去った。
玲子はクロスの言葉に泣き崩れた。
自分の意思ではないとはいえ、戦っていた意識はあったのだ。身体が勝手に動いて制御も出来なくて、傷を沢山負わせたのは事実。
謝っても済むことではないことくらい、十分分かっていたのに。謝らずにはいられなかった。
「…聞こえたか、コムイ」
《…えぇ…》
泣き崩れる玲子を遠めに見ながら、クロスは小さく言う。
クロスは今までの会話を無線を通してコムイに聞かせていたのだった。
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