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□叫び
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ルベリエは所々に包帯を巻いているクロスを見て、
「そんなに今回の任務はきつかったかね?」
足を組み、背もたれへもたれかかる。
「見た目ほどひどくはない」
医療班が大袈裟に包帯を巻いただけで、それほどひどい怪我ではないとクロスはいう。その言葉に、ルベリエはニヤリと笑い、そうかね、と言った。
「そうは思えんがね。その傷、あの小娘につけられた傷だろう」
「!」
ルベリエが言っているのは、元帥という立場にありながら、この場に出席しなくてもよい、権力がまだ低い臨時元帥の事を言っている。
「確か月宮、玲子といったね?」
ルベリエの言葉に、周りの声がざわめいた。
「待ってください長官!…どういうことですか」
何の報告ももらっていない支部長たちはその名が出たことに驚きを隠せない。
臨時元帥の名と顔は、書類上での報告はあった。それは若くして元帥の名を掴んだ一人の少女。
「何故仲間にクロス元帥が?」
元帥という立場。仲間であると言うのに何故攻撃をされなければならないのだ。
これには、流石のコムイも驚いていた。
「…きっと何かの間違いでしょう。そんなことあるはずがない!」
アジア支部長、バクはすかさず弁護に回る。バクの良く知る玲子が、そんな事をする子には思えなかったからだ。
「信用ならんのだよ。力を手にした小娘が、何を思ったのか暴れるとはね」
つまりだね、とルベリエは言う。
「彼女も、アレン・ウォーカー共々異端審問にかけます」
その言葉にまた、周りはざわめく。
異端審問など、死刑確定の拷問裁判だからだ。
「バカな…、ちょっと待て…っ」
「ルベリエ長官!」
取り乱すバクに、待ったをかけるように声を荒立てるコムイ。
「14番目と奏者について我々は何の報告も受けてません!」
それは失礼、とルベリエがこの場で説明をしようとしていたとき、コムイはそれを止め、書面でと続きを打ち切った。
クロスはアレンに対しては、すきに調べれば良いと、調べた上で結論を決めればいい余裕を見せた。
だが、玲子の事については何も話さなかった。
「(…分からんな)」
玲子という人物。
見る限りでは、普通の少女だ。それがいきなり、どういう訳でアクマになった?
この事を知っているのは、あの方舟で、方舟が消える前までいたアレンとリナリーとラビくらいだろう。
報告を受けていればコムイも知っているかと思ったが、あの様子から見て何も知らないだろう。
「(あの三人に聞くか、もしくは本人に聞くか、だな…)」
アレンとの会話を一切禁止するという事と、ハワード・リンクを監視役にとして付けるということを条件に、会議は終わり、解散となった。
クロスはクルリと踵を返し、その場を後にした。
コムイはその後ろ姿を見て、これからクロスと玲子の間で何もなければいい、と願っていた。
*****
森は静けさを取り戻していた。
婦長との約束を大幅に遅れ、教団に再び足を踏み入れた。
『…ラビ…』
「ん?」
『ごめんね…』
あのあと、泣き疲れて眠ってしまったらしく、神田の姿はなかった。
ラビが言うには、鬼のような形相で神田とラビを発見した婦長は、耳を掴んで出歩くなと叱ったらしい。
でも、神田は引きずられて行けたが、ラビは出来なかった。理由は、玲子がしっかりとラビの服を掴んで離さなかったからだという。
身動きの取れないラビに、婦長はちゃんと責任もって玲子を連れて来ることを約束させると、神田を引きずりながら病室を抜け出したアレンを探しに行った。
玲子が目を覚ましたのは神田が去ってから10分も経たないくらいのころだった。
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