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□叫び
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出ていくだけで、誰も傷つかなくて済むなら、そっちの方がいい。自分の意思で、ここに残っていたいなんて甘えたらいけないんだ。
出てかなきゃ。これ以上誰も傷つけたくない。
「…出ていく…だ?」
それまで黙っていた神田が、ラビの焦り方を理解したのか、ようやく口を開いた。
「出ていくって、どういう意味だ」
厳しい口調の神田。
やっと話が飲み込めた。ラビが焦っていたのはこいつが出ていこうとしたのを予感したからだ。
だが、何故出ていこうとするのか理由は分からなかった。
ラビの腕の中で、たぶん泣いてんだろうな。肩が揺れてる。
「…俺はお前らに聞きたい事があった。方舟のときからな」
「ユウ…」
方舟でコイツと再会した時の違和感。それは今も続いている。
何かがおかしい。
「話せ」
その違和感と、コイツが出ていきたいと言う理由が結び付くのか、知りたかった。
とうてい話せる状態ではない玲子。変わりに、ラビが方舟での事を話す。
「単刀直入に言うさ。ユウが違和感を覚えたのは、玲子の目が見えてないからさ」
「なっ…!」
まあ、驚くだろうな。オレだってロードにそう聞かされたとき、本当に信じられなかったからな。
「多分、目が見えてない玲子の行動に違和感を覚えてたのはそのせいだと思う」
「嘘だろ…?」
驚きすぎて、信じられないのか。気持ちは分からなくもない。でも、玲子の目を見れば分かっちまうんさ。
本当に、見えてないんだってことが。
いつから、とか聞く神田の顔は真っ青。
「…アレンに、やられてから。だって…」
だからといって、アレンを責めるわけにもいかない。アレンにはアレンの理由があったから。
その理由を、オレが話していのだろうか。
相手は神田だ。下手したら…。
「…何故黙る」
「いや…」
だってこれは、あまりにも玲子に酷過ぎる。それをオレが言って良いのか。
玲子に、話せるかと聞いても無理だと首を振られた。なら、オレが話して良いのかと言えば、少し間を開けて、小さく頷いた。
ああ、多分怖いんだろうな。
神田に話すってことがすごく、怖いんだろう。
「…玲子は」
神田だもんな。
オレらよりも厳しい反応が返ってくるのが怖いんだろう。
“裏切り者”
そういわれるのが、きっと。
「伯爵に、アクマにされたんだ」
ビクン、と玲子の肩が跳ねた。
立ちすくむ神田は、「は…?」と思考停止したように、目を見開いている。
「…何…言ってんだテメェ…」
「嘘じゃねぇさ」
「馬鹿言うなよ。そいつはエクソシストだぞ?…そんなの有り得ねぇ!」
「有り得たから今玲子は泣いてんだよ!!」
怒声に似た叫びが、木々をざわめかした。
わなわなと体が震えてる。情けねぇ。自分も玲子がアクマだなんて信じたくないってのが嫌でも伝わってしまう。
ギュッと抱きしめた玲子の体は、小さく震えてた。
「何だよ、それ…」
わけわかんねぇよ。
神田は前髪をくしゃりとかき上げた。
それでも、神田は言い放つ。
「“また”出ていくつもりか」
この話をするのはもうないと思っていた。
何年も前の事を掘り返したって何の意味もないから。それに、玲子はそれをバネにして、強くなった。
行方不明になったのだって、仲間の事を思っての行動だった。
それくらい、分かってる。
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