□叫び
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「さっき、玲子ちゃんが血相抱えて外への道を走っていってたから」


さっきぶつかった時、顔は見えなかった。ひどく慌てているようだった。


「どこに行った?」

「え?」

「玲子はどこ行ったんさ?」


玲子が一人で、血相抱えて、外に…?

ラビは少し嫌な予感がした。外に出て、一体何をするつもりだろう。


「…おい、ラビ?」

「…ユウ、オレ、」


どうしよう、と少しパニックになりかけているラビに神田は肩を叩いた。

神田は何も知らない。
ただ、玲子の怪我のひどさを心配していた。
でも、オレが気になるのはそんなことじゃなくて…。

ラビの焦りは表情に出ていたらしく、コムイと神田も、眉を寄せてどうしたとラビの様子を見ている。


オレが気になるのは、


「…玲子探して来るっ!」

「…俺も行く!」


コムイの制止も聞かず、神田とラビは外に向かって走っていった。


「(…頼むから、変な気は起こさないでくれよ…っ!)」


そう願いを込めて、先を急いだ。





*****






もう、目が見えないとかどうでもいい。そうじゃないの。今苦しいのはそういうことでじゃない。


『…ど……して…っ』


どうして、あたしが思うようになってくれないのだろう。いつも望んだ答えには辿り着けなくて、空回りして遠回りして。

違うのに。こんな事、


『わあああああぁぁぁっ!!』


木に縋り付くように崩れ落ちた。

婦長さんは一時間だけといった。でも、足りないかもしれない。一時間だけじゃ、この涙、止められない。止まらない。



「…玲子!!」



がしりと肩を掴まれ、無理矢理正面を向かされた。



「…見、つ…けた…っ!」


荒い呼吸に、少し汗ばんだ服。鼓動も激しく脈打っていた。
いきなりの事で分からなかった。でも後から来た神田の声で、自分は探されていたのだと理解した。


「…心臓止まるかと思った…」


ラビの声が耳に近い。
今、あたし、ラビに抱きしめられてる…?

だから、こんなにラビの鼓動が激しく聞こえるの?


『…はっ、離してよ…』


ぐっとラビの胸を押した。でも、ラビはそれ以上に強い力を腕に込めて逃れられなかった。


『離してよ…。離してよ…!』

「うるせぇバカっ!!」


お気楽なラビの声はどこに行ってしまったのか、今のラビの声は切なく、今にも泣きそうな声だった。


「…お前、変なこと考えてなかったろーな…?」

『…っ!?』


ビクリと肩を揺らせば、またバカヤロ、と言われた。


一瞬、過ぎったんだ。
嫌な予感が。

一人で泣きたいからとか、そういうものじゃなくて。

玲子がこの教団を裏切るんじゃないかって、そんな予感がしたんだ。
それを聞いてみたら、図星だったみたいで、肩をビクリとさせた。



ラビに言われたことに、一瞬ドキッとした。だって、考えたから。
この教団を出て行こうって…。


だって、だって、だって…!


『…あたし、ここにいちゃいけないでしょ…っ!』

「バカ言うなよ…っ」


だって、居て良いはず無いよ。
こんな自分、ここに居たらいけないんだ。居ちゃいけないんだ、きっと。いえ、絶対。


『…出てかなきゃっ…あたし、皆を…!』



出てかなきゃ、また、いつ正気を失うかも分からない。今度正気を失えば、今度こそ、今度こそ制御できなくて必ず誰かを傷つける。

そんなの、嫌だ。


『…やだ、…いやだ…!』


こんなに、大切な人達がいるんだから。



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