story

□灰と涙
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ボロボロと次から次へと零れていく涙。


神田は黙って玲子の背中を撫でている。


玲子はもう自分がどうしていいか分からず、泣くしかなかった。



分からない。分からない。


自分はなにがしたいのか、何をしたいのか、



『…分か、ない…』


気付いたら声に出して言っていた。

それでももう止められない。


涙も、言葉も。


『…あたし、分からない…』


エクソシストはアクマを破壊するもの。


それが当たり前だと思っていた。


でも、違う。


エクソシストはアクマを救う為に在る。


でも、それも違う。


『…本当に、エクソシストはアクマを壊して良いのか…分からない…』


だってアクマも自我に目覚める。


その自我を無視して、破壊しても良いのだろうか。


それは本当に正しい事?


アクマだって、人を好きになって、心を持ったりしていく。


本当に、壊して良いの?


「…お前、自信無くしたのか?」


『…自信?』


「自分のするべき事を信じる事だよ。
アクマはエクソシストに壊される物だ。そしてエクソシストは破壊者だ。分かってるだろ?」



神田の言葉は真っ直ぐで、グサリと核心を突いて来る。


そう、確かに自信を無くした。


自分の意志が揺るいだ。

分からなくなった。


「お前はその破壊者だ。嫌でもアクマを破壊しなきゃいけない、分かるな?」


『…』


「これでも分からないって言うのかお前。モヤシ並の甘さだな」


反応を示さない玲子に神田は少しいらついた口調で言った。


だが、玲子もこの神田の言い方が癪に障った。



甘いってどういうこと?


「俺はそういう奴は大嫌いだ」


揺らぐ事がそんなに悪い事?


「前はもっと強かっただろ玲子…」
『強くない!!』



玲子は神田を突き飛ばし、腕の中でから逃れた。


『あたしは元から強くなんか無い!!』



強くない。


アクマの囁き一つに心が揺らぐくらい弱いんだ。


『アクマに「愛してる」って言われて……、揺らいで…っ、頭ぐちゃぐちゃでっ…!分からなくなるのが甘いっていうの!?

上辺しか見てないくせに勝手な事言わないでよ!!』



こんな事、言いたいんじゃないのに。


神田は心配してくれてたのに。


今ので全部引かれてしまった。



驚いた顔をして玲子を見る神田。


はっと我に返って玲子に近付く。



「……悪い…。知らなかったとはいえ………」


何で謝るの。

謝るのはこっちなのに。


『…ごめん、本当にごめん。神田の言う通り、自信無くしてたの…』


神田の言うことはいつもストレートで直球勝負。


それを良く受け止めるか、悪く受け止めるかはこちらの自由で。


さっきの自分は悪く受け止めてしまったんだ。


神田は神田なりに励ましてくれてたのかもしれないのに。




「アクマは、何て言ってた…?」


『――…え?』





―…玲子に壊されて

良かった…――




そう言って、安らかに逝った。


「…なら、良かったじゃねぇか」

『え…?』

「アクマが壊される相手を選んでいったんだ」


壊されるなら、あたしの手で…?


他の誰よりも、あたしの手で破壊されることを望んだのかな。


『そう…だといいな…』


「そうだろ。後はお前がそのアクマを覚えててやればいい。

お前はお前らしく、お前のやり方でやればいい…」


アクマを破壊するだけじゃなく、アクマを救い、受け止めてやればいい。


お前の納得行くやり方を今から探せばいい。

そういって玲子の頭を撫でた。


「だからもう泣くなよ?」


神田は玲子の頭をぐしゃぐしゃにすると、次の任務の地に向かった。


『……言うだけ言って……』



お礼位、言わせてくれたって良いのに。


そして玲子もまた、歩きだした。




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