story

□灰と涙
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本当は殺すつもりで近付いた。


油断した隙を窺うために。


けど、一目見て、好きになってしまった。


アクマには望んではいけないものを望んでしまった。


だからこれは罰。


伯爵様を裏切ろうとした愚かなアクマへの罰なんだ。


だから、玲子が泣く事は、ないんだ。


でも、嬉しかった。


俺の為に泣いてくれて。


玲子を壊すことはしたくなかった。


好きになってしまったから。


人間の男が女を愛すように、俺も…。


だから、俺が玲子を壊す前に玲子が壊してくれて本当に良かった。



〈…好きダ、玲子…。…ア、愛してル………〉


『…ッ?!』



願わくば、玲子が闇に呑まれん事を…。




そして、エディは安らかに逝った。







エディが完全に崩れ落ちるのを見届けた玲子。


ぐっと何かが込み上げてしまい、吐き出してしまった。


『…ッ!!…ゲホッ!!』


一瞬にして周りは赤一色に染まった。


吐血し、意識が遠退いていく。


『(…リバ、ウンド……ッ)』


薄れ行く意識の中で、物影に隠れていたキースが駆け寄って来るのが見えた気がした。















目が覚めたのは二日後だった。


リバウンドを起こし、病院に搬送されたようだ。


体のあちこちに包帯が巻かれている。


全てイノセンスで再生したのにどうしてだろう。


そう問うと、キースは答えた。


見た目は綺麗にくっついているが無理な再生をしたらしく、中身はまだズタズタに傷んでいるらしい。


ちゃんとくっついている状態ではないのだ。


二、三週間は絶対安静と医師にそうしつこく口煩く言われた。


勿論、目が覚めた玲子にもそう言ってきた。


だが、玲子は無理を言って教団に帰らせてもらうことにした。


中々承諾を得るのには説得が難しかったが、体に障らない程度にゆっくり行くのなら、と渋々折れてくれた。


キースも同行するといっていたが、他に任務が入ってしまったためそれは出来なくなった。


玲子は気にしなくて良いと言い、キースを見送った。


『色々考えたいこともあるしね…』


そうして玲子は病院を後にした。




歩いているうちにいつの間にか夜になっていた。


見上げれば満天の星。


何時もなら騒ぎ立てて感動を表すのだが。


『…エディ…』


今はそんな気分では無い。


思い浮かべるのは最期に愛を囁いたアクマの残像。


空を見上げたまま、視界は滲んで行く。


何で涙が出るのだろう。


上を向いても流れる涙なら、前を向いても同じ事。


視界を星から地平線へと移す。


でもやっぱり目の前はぼやけて見えなかった。






「………玲子?」





前方から聞き覚えのある声が聞こえた。


薄暗く逆光でよく分からないが、見覚えのあるシルエット。


影は近付き、姿が現わになる。





『……神、田?』



何でここに?

目の前に居るのは紛れもなく神田で。


「…マテールの任務は終わったんだよ」


ああ、ここはスイスの国境を越えた所だったか。


神田達の行ったイタリアとは隣国か。


「お前、何泣いてんだよ」


仏頂面をしてこちらを見つつ、包帯だらけの玲子に気付き


「お前ッ!怪我したのか!?」


心配して駆け寄ってくれた。


その神田の行動が安心させるものがあって、涙腺は更に緩んで決壊寸前。


それでも、もう神田には泣き顔を見られたくないものだから俯き顔を隠してしまった。



ふと、温かな感触が体を包み込んだ。









「…泣き顔見られたくないなら、見ねぇから」


我慢はするな、そういって神田は玲子の背中を撫でた。


もう、涙腺なんてそんなものは関係無くなっていた。






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