story
□嵐ときどき雷
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「お待ちくださいませ玲子様ァー―――∨∨!!」
『いっ…嫌だッッ!!』
玲子は全力疾走して駆け抜けている。
その玲子の後ろには、嬉々として目を輝かせて追い掛けている十代後半と見られる一人の女性。
玲子はこの女性から逃げていた。
何故女性から逃げているかというと、それは少し前の事…。
『…ここか』
玲子はコムイから渡された書類を手に、任務の地スイスに訪れていた。
書類に目を落とせば、屋敷のある所はただ"この辺り"、という風に漠然としか記されていない。
屋敷の正確な位置が書かれていなかったのだ。
ファインダーから連絡が途絶えたせいでもあるのだろうが、これではまるで情報が少な過ぎる。
そう思った玲子は屋敷の調査を周辺からして行ったのだった。
聞き込みを開始してから一時間足らずで、その屋敷の位置は明らかになっていった。
地元では知らない人などいないようだ。
イタリアとの国境近くにある教会の隣に、その屋敷があるらしい。
そこは人気が少なく薄気味悪い所のようだ。
人々は口を揃えてこう言っていた。
「やめた方がいい、あそこには死神が棲んでいる」
「近寄れば魂を抜かれてしまう」
「死神は抜き取った魂と夜な夜な戯れている。人魂がふよふよさ迷っているんだ!」
皆、恐怖の色に染まり、人々は顔を青くしてそういっていた。
やはりその屋敷には奇怪が起きているようだ。
玲子はその情報を頼りに、その屋敷へ向かっていた。
屋敷は、死神が棲むと言っていた割に不気味な雰囲気はそれほど無かった。
一般の屋敷よりも少しだけ古いだけで、周りはちゃんと整備されている。
おどろおどろしい感じはあまり無かった。
屋敷の前に立って玲子はそう思った。
「キャー――――!!!」
途端、屋敷の中から女性の悲鳴が聞こえて来た。
玲子は迷わず屋敷内へ入り、悲鳴の聞こえた辺りを探して行った。
「いやー!来ないでー!!」
また女性の声が聞こえ、玲子は階段を駆け登り屋敷の奥へ走って行った。
一番奥の部屋の扉を開くと、アクマに襲われている女性が目に入った。
アクマは女性に銃口を向け発砲している。
女性は机を盾に銃弾を防いでいたが、アクマの銃弾によりその机は崩れてしまった。
盾になるものは何も無く、女性は身を守る術を無くしてしまった。
トドメと言わんばかりにアクマはゆっくりと全銃口を女性に向ける。
女性は諦め固く瞼をつぶった。
「……?」
いつまで経っても銃弾はやってこない。
恐る恐る目を開くとさっきまで目の前にいた怪物が石に変化し、灰へと変わっていった。
消えた怪物の後ろに人影がぽつりとあった。
人は段々近付いて来ている。
怪物の次は殺人鬼?
女性は身を縮めて震えた。
『…大丈夫ですか?』
顔を上げれば手が差し延べられており、その人は不安を与えないようにと微笑していた。
「……ク………」
『…?』
「ストライクですわー―!!!!」
『え、うわっ!ちょ…っ!?』
優しい微笑に思わず反応してしまった女性は、「ストライク」と叫んで玲子に飛び付いた。
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