story
□人の素顔は笑顔で隠れる
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夜明け前、教団内の森で玲子は一人修業していた。
夜は静かで集中力が増す。
玲子は落ちてくる木葉をクナイで射抜く練習をしていた。
『…ふぅ』
落ちる木葉を、百発百中で貫けるようになった。
元々練習をしていたため、腕前は中々のものだったが、玲子は更に磨きをかけようと、毎晩少しの時間を使って鍛練していたのだ。
『(大分確実に射抜けるようになったな。でも、まだまだだ)』
そして再度クナイを構え、葉が落ちてくる音に集中する。
『…っ!!?』
傍らから、僅かな殺気を玲子は感じ取った。
反射的にクナイを構え、その殺気の塊である刃を受け止めた。
金属同士がぶつかり合い、火花が散った。
やけに散った火花が衝撃の強さを物語り明るく見えた。
今は夜明け前、確かに暗いことは暗い。だが辺りは暗いが、人の顔が見えるくらいの明るさはあった。
同じ黒髪。
意地悪に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「…ほぉ、よく気付いたな」
『……不意打ちは卑怯だって前に言わなかったっけ。神田』
少し間をあけため息をつきながら玲子は言った。
隙だらけのお前が悪い、と言い神田は六幻を鞘に納める。
『集中してるとこを狙うなんて紳士失格だよ神田』
「悪いが俺は紳士じゃねえ。紳士なんか知るかよ」
『……武士道精神も無いのか』
玲子は不満をグチグチと神田に述べる。だが神田は全く聞き耳持たず、クナイをじっと見ているままだった。
『…?』
…何だろう。
今更神田はクナイに興味を持ったのだろうか。しばらくの間じっと見ている。
『(まさか、…欲しいとか、言わないよね?)』
少し冷や汗を流しながら神田を見ていると、神田は顔を上げ玲子を見た。
「それがお前のイノセンスか?」
『…へ?』
神田は、子供のような(とは言ってもさほど表情の変化は無いのだが)期待を膨らませたような顔で玲子の返事を待っていた。
『…いや、これは違』
「イノセンスあんだろ?」
早く見せろよ、と神田は玲子を急かす。
玲子はクナイを欲しがられなくて良かったと胸を撫で下ろした。
『このクナイはイノセンスじゃないよ。あたしのはコレ』
そう言って玲子は自分の眼を指差した。
いまいち分からないのか神田は小首を傾げている。
「…目、か?」
『そう、眼』
玲子がじらすと神田はムッとしたのか眉間にシワがより始めた。
『(わぁ、こりゃ早く見せないとこちらの身が危ないね)』
玲子は苦笑して神田のシワを見ていた。
『イノセンス見せてあげるけど、怒らないでよ?』
いきなり体が動かなくなったら神田は唯一動く口で自分に怒鳴り付けてくるだろうな。
だから最初に怒らないように釘を指して置いた。
…まあ、守ってくれるかは分からないが。
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