story

□肩を並べて
2ページ/9ページ





『この子は敵じゃないよ』


「…え?」



俯きがちな顔を一気に上げ、アレンは目の前にいる人を見た。


同じ位の背丈。


それでも優しさをまとう背中。


揺れる黒髪は風に靡いて綺麗だ。



神田とか言う人と似た髪型。


似た髪の色。


似た服装。


違うのは、この行動。


背中で庇って守ろうとしてくれている。


恐らく自分より小さいであろう、その背中で。


一生懸命守ろうとしている。


顔は見えないけど、きっといい人だろうな…。


アレンが玲子の背中を見ていると、だんだんその背中が近づいて来ていることに気がついた。



「(…後ずさり、をしてるのかな)」



その人のさらに前を見ると、切っ先を向けている神田の姿がそこにあった。


切っ先を突き付けながら前進してくる神田。


それに従い後進する玲子とアレン。



「…お前、こんな奴の味方をするのか…?こいつはアク…」


『アクマなんかじゃないよ』


「…ッ?!」



なぜだ。


なぜこの人はこんな状況になりながらも僕を守ってくれるのだろう。


なんのメリットも無いだろうに。


僕の目の前はとうとう真っ黒になった。


黒く見えたのは、切っ先を向けられている人の頭だった。



「…退け玲子」


『どかないよ。この子は無害だ』


切っ先を目の前に突き付けられても平然と言う玲子。


刀を突き付け一歩一歩近づいて来る神田。


玲子はその神田の一歩ずつを後進していく外無かった。


勿論玲子の背中に守られているアレンは、玲子が下がるごとにその背中に押され、一緒に退くことしか出来ずにいた。



そしてとうとうアレンの背中は門番の壁へとぶつかり、下がりようがなくなってしまった。



「後がねぇぞ玲子」



どうする、と言わんばかりに神田は玲子に迫り来る。


玲子は斬らせまいとアレンを守ろうとしてさらに背中を押し付けた。



「(あ…)」



背中を密着され、ぎゅうぎゅう詰めになっているアレンは不謹慎にもこう思ってしまった。



「(…この人、すごく良い香り…)」



近付かなければ分からないような清潔感の漂う匂いに思わずため息が出てしまった。


変態かと思われてしまうかもしれないが、この匂いは好きだったりする。


この体制のせいか、もしくはこの好きな香りのせいでか、アレンの鼓動は自然と速くなっていった。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ