story
□近づく影
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奥の部屋からは兄以外の声が聞こえた。
兄の他にもう一人、兄と話をしているようだった。
話している声が微かに耳に入り、ついリナリーはその声に聞き耳を立てていた。
高過ぎず、低過ぎず、安定した声色。
どこかしら安心させる音程でもある。
この声はリナリーが最も今聞きたい声だったのかも知れない。
リナリーは科学班とその部屋を区切る扉を静かにノックをしてドアノブを捻った。
『コムイさん』
「ん?なんだい?」
シンクロ率を測り戻ってきた玲子とコムイは暫くこの部屋に留まり、他愛のない話をしていた。
謝り合ったり、笑い合ったり、自分達の思っていた事を全て話したりし、少しの時間を過ごしていた。
そんなに話していた記憶は無かったのだか、明け方前だったのがいつの間にか太陽は昇り、日が少し射していた。
大体の話をして、満足したのかコムイもそろそろ仕事に着きたいような雰囲気になっていたので玲子はとりあえず会話を切り上げようとした。
だが、少し気になった事があったのでそれを聞いてから自分の部屋に戻ろうと考えた。
『あの、コムイさん』
「何かな、玲子ちゃん?」
『対した事じゃないんですけど、その、リナリーは…?』
玲子は帰って来て一度も彼女の姿を確認していないことコムイに告げた。
神田やラビは任務だということは知っている。
それに、探しに来てくれたのが彼等だった。
リナリーは帰りを待っていてくれているのだろうかと、少し不安になった。
彼女の事だから、てっきり一番に出迎えて来ると思っていた。
教団の皆を家族と思っているのだから、それが当たり前なんだと。
だが実際は見ていない。
どうしたのだろう。
早く会って、話をしたい。
「…リナリーなら寝てるよ。ほら、まだ夜明けだからね」
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