story

□覚悟を決めて
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――シャン…



――シャラン…




――クスクス…



鈴の音と錯覚を起こしそうになる掠れた笑い声。


―まただ…。


また、この空間がやってきた。


回りは闇の黒一色。


見渡せば、黒。


何度も同じ光景を見ていると、流石に慣れてしまうのが人間の不思議な所であった。


それが、どんなに自分が嫌なモノであっても、己の目の内に飛び込んで来るのは、もう慣れてしまった。


しかし、慣れたといっても嫌なモノには変わり無い。


いつもこの空間が嫌いだった。


響く物など何も無いこの空間に、いくら目をつむり耳を塞ごうがあの声はやってくる。



―何だ、また来たのか―



ほら、お出ましだ。


玲子はつむっていた目を開くが、やはり何も無い。


ただ見えるのは闇の色。


見えるはずも無いのに、何かあるのではないかと目を懲らしてしまう。


見えないモノなど無いはずなのに、この世界にはソレがある。


この声の主がそうだ。



―さて?今日はどんな夢を所望するのかな?―



鈴のように響く嫌な声は、何とも楽しそうに話をするのだった。


いつも、玲子に悪夢を見せては嘲笑い、その反応を楽しんでいる奴。



もう慣れた、この感覚。



玲子は、頭に響く声の主にため息をついた。


いつも、こちらの反応ばかりを楽しんでいる奴。


それがどうも気に食わない。


まんまと嵌まってしまう自分も自分なのだが、やはり奴のする事は頭に来る。


思い通りにされている、自分も嫌だった。


でも、これからは…。



声の主は中々玲子が反応を示さないため、あえて厭味たらしく耳の奥に響かせた。


―馬鹿だなお前。あそこに戻ったって何の役にも立たないのにな―


そして、付け足すようにクスリと笑う。


『反応されたいがためにわざわざそんな事を言うの?あんたは』


―さぁ?クスクス―


『…子供だな。話にならない』


―…今日は偉く口を動かすね、君。そんな事言って良いの?化け物さん?―


『……』


玲子はもう、騙されないと既に心に誓っていた。


―何だよ、今度はだんまり?クスッ。…可哀相に、自分が恐ろしいんだねぇ―


それなのに、戻っちゃって良いのかな?と、声の主は玲子に問い掛ける。


勿論玲子はこの問いに対して素早く答えた。


『当たり前だ。あたしが教団に戻って何が悪い』


そう玲子が即答すると、声の主は少しばかり反応をした。


今回は、いつものように玲子が思い通りにならないことを、声の主はつまらなく感じた。


―戻って何するのさ。仲間を傷付けに行くのかい?壊して、ボロボロにして、消しに行くのか?―


それなら僕は止めないけどね、と面白そうに言うのだ。


これが挑発だというのが玲子は分かっていた。


分かっていて、その罠に嵌まってしまっていた。


…今までは。



―どうせ壊れて無くなる奴らの事なんか、放って置けばいいじゃないか。そんな奴ら、必要ないよ―


また、決まってクスリと笑う。


やけに今日の声は耳の奥底まで響いてくる。


直接頭に振動が行っているのではないかと思うくらいだ。


もしかしたら、こうしていつもより深く不安に落とそうとしているのかもしれない。


そうはいくものか。


自分の決めた道を引き返すほど、自分は腰抜けになどなりたくない。


声の主はまだ玲子に対する厭味を止めない。


先ほどより直接的な言い方に変わり、その声は更に深く玲子の中に入って行く。


深く、まるで催眠を掛けるように。



―いつだってお前は一人なんだ。これからも、その先も―


『…』


―ずっとずっと、お前は一人なんだ。仲間なんて必要ない。お前は、一人でいるべきだ―



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