story
□覚悟を決めて
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『…一人でいなきゃいけない人なんか、この世にはいない』
―いるさ、お前がそうだ。お前が頑張った所で何も変わりはしない。信じた分だけ裏切られ、必要とはされない。ただ一人の、お前―
くわん、と何かが自分の中に落ちてきたような、そんな感覚に玲子は襲われた。
落とされたのは奴の声で、その言葉に自分の心が揺らぎ、体が受け入れてしまったからだと、玲子は自覚した。
けれど、玲子はもう揺らがないと決めたのだ。
こんな奴の言葉なんかに、いちいち反応しては奴が喜ぶばかりだからだ。
揺らがない、覚悟はもう出来ている。
『…自分がどうなろうが構わない。あたしはあたしのやりたい事を、したいようにする。たとえ裏切られたとしても』
あたしは、構わない。
―それが、無駄な事だというのが何故分からない?―
声の主は玲子の強い覚悟を振り払わせるように玲子にいった。
―お前はいつか、あいつらを壊して化け物になるんだ!あいつらにとってお前は驚異でしかない!
使われたら捨てられるだけだ!
お前なんかが必要とされる訳が無い!!
どうせ上辺だけだ!―
『あたしを必要としないのなら、何故あの人達はあたしを探した!?何故受け入れた!!何故あたしを助けた!何故優しい言葉をあたしにくれた!!』
声の主はいつもの喋り方ではなくなっていた。
玲子を不安に陥れる以外、頭に無いような感じで話しているようだった。
その言い方に玲子は黙っているはずもなく、反論は直ぐに返って来た。
不安で圧し潰れてしまいそうな自分を、彼らは優しく包み込んでくれた。
おかしくなっていた自分に手を差し延べてさえくれた。
そんな人達をどう疑えるというのだ。
『あたしが恐ろしいというなら捨てて行けば良い。必要としないのなら、求めなければ良い』
でも、彼らは違った。
『…でも、彼らはあたしを見つけ出し、救ってくれた。これは何故だか分かるか!?』
温かかった人の感覚を今でも覚えている。
『あたしを、仲間だと…、必要としてくれているからだ!お前に分かるか!?』
―うるさい、うるさい!!偉そうに言うんじゃない!!―
『何度だって言ってやる!』
お前が、あたしを縛れ無くなるまで言ってやる。
縛る気すら起きなくなるまで言ってやる。
『あたしは、もうあんたの言いなりにはならない!!あの人達と離れたりしない!!』
―うるさい、うるさい!!―
『あたしは
逃げないっ!!』
もう、逃げたりしない。
あたしは、手を差し延べてくれたあの人達と一緒に歩いていく。
どんなに辛くても、守ってみせる。
―うるさい…、黙れ――ッ!!―
奴の声は玲子の頭に響いた。
鼓膜を突き破り直接脳に刺激を与えているようだ。
割れるように頭が痛くなる玲子。
玲子は奴の声で頭に痛みが走りふらついた。
―お前、この僕に指図できると思っているのか。その目を持って僕に刃向かうのか―
奴の声は、いつもの余裕が感じられない。
玲子を怯えさせ、精神的に追い込もうとしているのがよく分かる。
―お前は化け物だ。化け物は化け物らしく一人ぼっちでいればいいんだ!!―
『…お前はいつもそうやってあたしを心理的に追い込んでいくな。けど、あたしはもう揺るがない!
早く
消えろ!!』
確かなモノを、あの時感じた。
仲間の気持ち、あの時分かった。
あたしを拒絶なんかしていなかった。
それが分かれば、あたしに逃げる理由は無い。
だから、
『あたしはあんたにも、自分にも負けないって決めたんだ!!』
玲子がそう叫ぶと、脳に伝わる痛みと、声は引いていった。
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