story

□覚悟を決めて
2ページ/8ページ



『…一人でいなきゃいけない人なんか、この世にはいない』


―いるさ、お前がそうだ。お前が頑張った所で何も変わりはしない。信じた分だけ裏切られ、必要とはされない。ただ一人の、お前―



くわん、と何かが自分の中に落ちてきたような、そんな感覚に玲子は襲われた。


落とされたのは奴の声で、その言葉に自分の心が揺らぎ、体が受け入れてしまったからだと、玲子は自覚した。


けれど、玲子はもう揺らがないと決めたのだ。


こんな奴の言葉なんかに、いちいち反応しては奴が喜ぶばかりだからだ。



揺らがない、覚悟はもう出来ている。


『…自分がどうなろうが構わない。あたしはあたしのやりたい事を、したいようにする。たとえ裏切られたとしても』


あたしは、構わない。


―それが、無駄な事だというのが何故分からない?―


声の主は玲子の強い覚悟を振り払わせるように玲子にいった。


―お前はいつか、あいつらを壊して化け物になるんだ!あいつらにとってお前は驚異でしかない!

使われたら捨てられるだけだ!

お前なんかが必要とされる訳が無い!!


どうせ上辺だけだ!―


『あたしを必要としないのなら、何故あの人達はあたしを探した!?何故受け入れた!!何故あたしを助けた!何故優しい言葉をあたしにくれた!!』



声の主はいつもの喋り方ではなくなっていた。


玲子を不安に陥れる以外、頭に無いような感じで話しているようだった。


その言い方に玲子は黙っているはずもなく、反論は直ぐに返って来た。


不安で圧し潰れてしまいそうな自分を、彼らは優しく包み込んでくれた。


おかしくなっていた自分に手を差し延べてさえくれた。


そんな人達をどう疑えるというのだ。



『あたしが恐ろしいというなら捨てて行けば良い。必要としないのなら、求めなければ良い』


でも、彼らは違った。


『…でも、彼らはあたしを見つけ出し、救ってくれた。これは何故だか分かるか!?』



温かかった人の感覚を今でも覚えている。



『あたしを、仲間だと…、必要としてくれているからだ!お前に分かるか!?』


―うるさい、うるさい!!偉そうに言うんじゃない!!―


『何度だって言ってやる!』


お前が、あたしを縛れ無くなるまで言ってやる。


縛る気すら起きなくなるまで言ってやる。


『あたしは、もうあんたの言いなりにはならない!!あの人達と離れたりしない!!』


―うるさい、うるさい!!―


『あたしは


逃げないっ!!』


もう、逃げたりしない。


あたしは、手を差し延べてくれたあの人達と一緒に歩いていく。


どんなに辛くても、守ってみせる。


―うるさい…、黙れ――ッ!!―


奴の声は玲子の頭に響いた。


鼓膜を突き破り直接脳に刺激を与えているようだ。


割れるように頭が痛くなる玲子。


玲子は奴の声で頭に痛みが走りふらついた。


―お前、この僕に指図できると思っているのか。その目を持って僕に刃向かうのか―


奴の声は、いつもの余裕が感じられない。


玲子を怯えさせ、精神的に追い込もうとしているのがよく分かる。


―お前は化け物だ。化け物は化け物らしく一人ぼっちでいればいいんだ!!―


『…お前はいつもそうやってあたしを心理的に追い込んでいくな。けど、あたしはもう揺るがない!
早く


消えろ!!』


確かなモノを、あの時感じた。


仲間の気持ち、あの時分かった。


あたしを拒絶なんかしていなかった。


それが分かれば、あたしに逃げる理由は無い。


だから、


『あたしはあんたにも、自分にも負けないって決めたんだ!!』


玲子がそう叫ぶと、脳に伝わる痛みと、声は引いていった。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ