story

□覚悟を決めて
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「大丈夫かい?」


不意に聞こえた声に玲子は反応し、布団の中から顔を出した。


ぼんやりと見える人影は縦に長く顔はよく見えない。


まだ電気が点けられていないため、明け方の薄明かりに頼るしか無かった。


玲子が余り反応を示さないのを心配してか、その人影はまた玲子に声をかけた。


「…大丈夫かい、玲子ちゃん」


今度は確かに聞こえ、玲子は反応した。


『…コムイ…さん?』


玲子は声の主がコムイである事を確認した。


「玲子ちゃん…」


コムイの表情は室内が薄暗いためよく見えない。


ただ、コムイの声は不安を帯びていることだけは分かった。


コムイの声以外何も聞こえないその場所に、再びコムイの声が響いた。



「…ごめんね、玲子ちゃん…。おかえり」



それは玲子にとって驚きの言葉だった。


ふわりと額に温かいものを感じた。


それがコムイの手である事はすぐに分かった。


玲子の存在を確かめるような、優しく撫でている。


「ありがとう、戻って来てくれて…」


ここにいるのは間違いなく玲子。


逞しくあり、凛々しくあり、そしてやはり女の子の玲子。


コムイは玲子の額に手を置きながら考えた。


何から謝れば良いのかコムイには分からなかった。


謝りたい事が沢山あり過ぎて、何から最初に謝れば良いか分からないのだった。


それでも謝りたい気持ちばかり溢れ出て、せき止める事は出来ずにいた。


「ごめんね、…本当に、ごめんね…」


僕はどれだけ君を傷つけてしまったのだろう。


入団当初から今に至るまで、ずっと君を傷つけていた。


それをどうやって謝れば良いのだろう。


「ごめんね…」


僕は、取り返しの着かないことをしてしまうところだった。


教団を守るためだとか言って、害の無い玲子ちゃんを追い詰めて、あんな風にしてしまった。


悔やんでも悔やみ切れない。


コムイはまた、ごめんねと玲子に呟いた。



『…コムイさん…』


額に手を下ろし謝り続けるコムイに、玲子はやっと声を掛ける事が出来た。


コムイの声は、今まで聞いてきた中で一番不安げで切ない声に聞こえた。


こんな声を出させてしまうほど、自分を心配してくれていたのだろうか。


もしそうだとしたら、自分の事しか考えていなかった自分が更に恥ずかしくなった。


こんなに心配してくれていたのに、自分はこの人達を疑い、自分に恐れて逃げ出してしまった。


自分の事で精一杯だなんて、なんて情けないのだろう。


自分がふがいなさ過ぎて泣いてしまいそうだ。


『…ごめんなさい……』


あたしは、疑い逃げ出してしまいました。


貴方達が恐ろしくなって逃げ出しました。


無くしてしまいそうで怖いという理由を着けて貴方達が怖くなって逃げ出しました。


ふがいなくてごめんなさい。


『ごめんなさい…』


本当にごめんなさい。


『…コムイさんは悪くないよ。当たり前な事をしただけだから…、あたしが悪いんだ…』



とうとう堪え切れなくなったのか玲子の視界はぼやけ、一筋の涙が流れた。


「…どうして、君が謝るんだい?」


悪いのは僕なのに。


僕が中途半端だったからいけないのに。


コムイは玲子の流した涙を親指の腹で拭ってやった。


「君が謝らなきゃいけないことなんて何も無いんだよ…?」


『違う…、いっぱいある…』


玲子はもう止められないであろう涙を次々流した。


『あたしが半端だったから、初めから…イノセンスに魅入られていたら良かったんだ…、そしたら、コムイさんに余計な不安を与えなかったのに』


あたしがはっきりしていなかったから、コムイさんが疑ってしまうのは当たり前。


仕方ないことだと分かっていてもやっぱり寂しく感じた。


必要とされたかった。


仲間として一緒にいたいと思っていた。


自分が頑張ればいつか信じてもらえるとそう信じていた。


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