story

□覚悟を決めて
3ページ/8ページ

負けないと誓う玲子の目の前には、一筋の光が差し込んで来た。


この暗闇の中で唯一確認できる、明るい光。


その光に玲子は手を翳した。







「―……!玲子!?」


玲子が光を手にしたと感じたものは、夢から現実に意識を取り戻しかけていたからだった。


「玲子!」


玲子は目を覚まし、その声に反応する。


『…リ…バ、…班…ちょ……?』


隣に座っていたのはリーバー班長だった。


不安げに玲子の顔を覗き込んでいる。


玲子はそんなリーバーに対し笑顔で答えた。


リーバーはその玲子の笑顔を見て安心したのか、先程まで寄せていた眉間の皺を和らげた。


「…もう大丈夫か?玲子」


まだ少し不安が残るリーバー。


玲子は大丈夫です、と答えたが以外にも声が掠れていた事に驚いた。


『…あの』


「?何だ?」


玲子は自分の手に視線を送ると温かいものを感じた。


『…何で手、繋いでるんですか?』


「え?…あぁっ!?」


リーバーは慌てて玲子から手を離すと、その行き場の無い手を自分の膝の上にと置いた。


「その、な。お前がうなされて、手を延ばしていたからつい、だな……」


リーバーは口ごもり言葉を詰まらせると、豪快に頭をかくと立ち上がり、出口へと向かって行った。


出口付近まで行くとリーバーは立ち止まり玲子に振り向いた。


「…ちょっと待ってろ。室長、呼んでくる…」


それだけ言うとリーバーは病室を出ていった。



「くそ…」



ぽそりと呟いた言葉は、少し喉に引っ掛かり出にくかった。


リーバーはほんの少し熱い自分の頬を一発ぱちんと叩いてみた。


その行動はまるで自分の感情を押し殺そうとしているようなものだった。


「…玲子」


よかった、玲子が生きていて、本当に良かった。


一度は逃げたと聞いて、教団を裏切ったのかと思った。


もしそうだとしたら、教団は玲子を追わなければならなかった。


玲子を裏切り者として見なければならなかった。


それは、教団にいるもの全てが出来ないとしていた。


だが、玲子は裏切った訳では無かった。


教団が対処する前に戻って来て本当に良かった。


「…玲子、お前には…死んでほしくないんだ……」


リーバーはただそれだけを呟くと、耳まで赤く染まった顔をしながら室長室まで続く廊下を歩いた。





玲子はベッドに横になっていた。


天井を見上げ、ただぽつんとあるその空間を一回見渡した。


いつもの教団だ。


明け方前のためか、少し薄暗い部屋。


それに、ぼんやりと見える白い壁。


よく見てみるとそこには、大きな染みが一つあった。


あれは玲子が無理矢理取った為に破れて出来た点滴液が作った染み。


前に錯乱してボロボロにしてしまったベッドやカーテンは新しく変えてあり、まだ新品の匂いを纏っている。


『この部屋であたしは暴れたんだ…』


錯乱して暴れ回り、迷惑を掛け、そして泣いてしまった。


よく考えると、こんな状態になったのは人生初の出来事かもしれない。


まさか自分がこんなに取り乱すなんて思ってもいなかった。


『…恥ずかしい…』


暴れて叫んで、狂ったように誰も近づけず、一人怯えて…。


見るに耐えられない姿だっただろう。


泣きじゃくって精神崩壊寸前だった姿はどう写っていたのだろう。



『…穴があったら入りたい』



自分の行動を思い出して段々と恥ずかしさが増してきた玲子。

布団に顔を埋めて小さく丸まってしまった。


『よりにもよってあの神田に泣き付いちゃうなんて…』


一生の恥だ。


絶対これをだしにいじめてくるだろう。


人前でなんか、泣いた事などなかったのに。


玲子は更に深く布団に潜り込んだ。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ