story

□おかえり、おかえり
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「お帰り」


コムイは帰って来た三人を、ファインダーの使う水路で出迎えていた。


神田、ラビ、ブックマンは舟から降りるとコムイの顔を見た。


優しい、穏やかな顔。


いつもなら出迎えるなんて事はしないのに、と考える。


「珍しいな、出迎えるなんて」


「ははは、うん。何だか待ち遠しくてね」


コムイは神田の珍しい物を見るような目つきに多少、苦笑した。


確かに、いつもならこんなことはしていない。


している暇がないのだ。


そんな忙しい中、わざわざこんな水路の所までやって来て、待ち伏せてしまうのには理由があった。


待ち遠しい、理由。


それは玲子が帰って来るという報告を受けたからだ。


「三人共お疲れ様。神田君報告ありがとね」


「あ?あぁ」


神田のゴーレムから連絡を受け玲子の生存が確認できた時、コムイは心の底から安堵した。


偶然リーバーが見つけた資料の中で気付いた点を、見事に神田達が証明してくれた事。


ずっとずっと気掛かりだった玲子がやっと見つかり、帰って来るという事に心の弾みが、コムイを室長室に留まらせなかったのだ。



「…ところで神田君、玲子ちゃんは一体どこにいるんだい?」



帰ってくるはずの本人玲子が、目の前にはいなかった。


玲子が帰って来る事を期待していたコムイは、まだかまだかと辺りを見回すが、やはり玲子見当たらない。


「…神田君?」


コムイはおかしいなと、首を傾げながら神田に問う。


すると神田は一歩前へと踏み出すと、イラらついた面持ちで事を言った。


ラビはギクリと冷や汗を流している。


「玲子ならいねぇ」


「え、な、なんで?」


あれほど胸を踊らせたことはなかったのに、神田の返事はコムイの期待を見事に打ち砕いてしまった。


「玲子は逃げた」


「え?」


「逃・げ・た!」


ラビが玲子を取り逃がした事を思い出したのか、神田は眉間に皺を寄せて口調を荒くした。


傍らでラビは小さくうずくまっている。


また神田にゲンコツを喰らうのではないかとビクビクしながら隅へと寄っていた。


当然コムイは玲子が逃げるなんて事など考えてもいなかったので、何故「逃げた」という単語が出てきたのか分からなかった。


「な、何で玲子ちゃんは逃げたの?」

「知るかよ。人の顔見るなりに逃げやがった」


チッ、と神田は舌打ちをし、更に眉間に皺を寄せるが、どこと無く表情は柔らかい。


いつもの神田ではないようだ。


「…まぁ、逃げ切れるだけ元気はあるんだろ…」


ふっと僅かに微笑む神田にコムイとラビはぎょっとした。


怒りMAXでゲンコツが飛び出そうな迫力だったのが、いきなり穏やかな顔付きになり、微笑までしたのだ。


奇っ怪な物を見るようにコムイとラビは神田に視線を送り、固まった。


神田は何故自分は笑ったのか分からず、取りあえず照れ隠しに眉間に皺を寄せてみた。


対象的な図が今ここに描かれていた。


「…、ま、まぁ、それは置いといてさ」


その変な空気に耐え切れなくなったラビは、自ら手を挙げ喋り出す。


「今は玲子の事っしょ!そっちが優先さ」


ラビは話題を玲子の事に戻し、今後の行動について話し合いを求めた。


「…玲子の事なら、連れて帰った方が良いに決まってる」


神田はラビの話に耳を貸し自分の意見を主張する。


コムイも神田の考えに賛成し、頷いている。


だが、ラビは二人とは違った意見を発した。



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