story
□おかえり、おかえり
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「…玲子の事なんだけど、あいつが自分から帰って来るのを待った方が良いんじゃねぇかな?」
「それは、待つって事?」
「そうさ」
玲子が逃げたのにはきっと理由があるのだろう。
脅えた目をしてこちらを見ていたのだから。
こちらに怯えているというなら尚更無理矢理連れて来るのは良くないと思う。
そんな状態で連れ込んでは、精神的に狂ってもおかしくないだろう。
ラビは玲子が落ち着いてから来てもらえたらいい、と思っていた。
だが、
「いつ帰って来るか分からねぇ奴を待てってのか?」
神田はラビの考えに反対のようだった。
「でもっ!玲子はオレらを見て脅えてるように見えんさ。それでも、ユウは連れて帰るのか?」
それは、可哀相さ…。
ラビは玲子を思い、玲子の中で整理が着いてから戻って来て欲しいと願った。
しかし、やはり神田は反対らしくラビに冷たい視線を送っている。
「俺は反対だ。玲子は連れて帰る、それ以外は却下だ」
ラビは神田のあまりにも自分勝手な言葉についカッとなり、神田の襟元を乱暴に掴み上げて怒声を浴びせた。
「無理矢理連れて来てどうすんだよ!それで玲子が傷付いたらどうすんだ!それじゃあ意味ねぇんだよ!!」
玲子の事を考え怒りを表にしているラビを気にも留めず神田は続ける。
「あいつはもうこちら側についた身だ。こちらにいるのが当たり前じゃねぇか」
「ユウ!!」
「感情一つで動いて良い場所じゃねぇんだよ。それくらいテメェも分かってんだろ」
神田は、襟元を掴み上げ食ってかかるラビを冷たく見据え、そのラビの手を振りほどき、二、三歩後ろに下がった。
ラビは振りほどかれた手を握り締め、僅かに震わせている。
怒りや、ふがいなさ、色々な感情からラビの拳は震えていた。
「…ユウは、玲子が壊れても構わないってのかよ」
1トーン下がった声色でラビは神田を睨む。
「玲子は目が、脅えたんだぞ!?こっちに脅える対象があったんだぞ!!それなのに、こっちに無理矢理連れてなんか来たら脅え狂っちまうさ!!」
「だったらこのまま放っておけってのかよ!!?」
間髪入れず怒鳴り散らした神田に一瞬ラビは驚き息を呑んだ。
神田の怒声はびりびりと鼓膜を震わせて、体を痺れさせる。
「脅えたからそっとしておく?帰って来るのを待つ?そして玲子を何処かに離すのか?」
一度離れたラビとの距離を神田は自ら狭め、今度は神田がラビの襟元を掴み上げた。
「それで玲子がいなくなった、玲子はアクマに襲われた。
今度こそ消息がわからなくなった…!
んな事になったらテメェは後悔しねぇのかよ!?」
神田は力の限りラビを突っ放し、ラビに尻餅をつかせると、その上からまた襟元を掴み上げる。
「玲子が脅えた?確かにそうかもしれねぇな。だけどな、今一番ビビってんのはテメェだ!
玲子が脅える姿を見たくない、狂ってしまう玲子を見るのは嫌だ。何だかんだと理由をつけては逃げて回って
結局テメェは自分が傷付くのを一番恐がってんじゃねぇかよ!!」
脅えられて傷付くのはこちら。
狂っている玲子を見て辛くなるのも、結局は自分で。
そんな思いをしたくなくて、
知らず知らずの内に玲子を遠ざけていたのは、ラビ自身だった。
「心配して、その後どうするか自由ってんなら俺は玲子を連れ戻す。
例え俺達に脅えてたとしても、理由を聞かない限り分からねぇ。
玲子を手放して理由を分からないままにしておくか、玲子を連れて帰って言葉(理由)を待つかだったら
俺は後者を選ぶ」
神田は強い口調でラビに言い放った。
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