story

□おかえり、おかえり
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『……?』



アクマの爆発をまともに食らってしまった玲子。


だが、食らってはずの攻撃は身体に傷一つついていなかった。



「……怪我は無いか?」


『!?』



頭上から降ってくる声に玲子は顔を上げる。


そこにいたのは


『…神…田?』


見覚えのあるシルエット。


後ろ姿でもすぐにわかった。


神田は玲子を庇い、六幻でアクマの爆発を防いでいた。


「…テメェ、油断してんじゃねぇよ」


玲子に背を向けていた神田は六幻を鞘に納めて玲子と向き合った。



「…怪我は無いようだな」



神田は玲子に歩み寄る、が、玲子は近寄られた分後ずさる。


神田は軽く舌打ちをして、また一歩足を出す。


「…お前、いつまで逃げるつもりだ」


『…』


神田の問いに対して無言で通す玲子に、神田は溜息を吐き玲子を見る。



…顔色が大分悪いな。



ふと神田がそう思っていた時、玲子の身体が力無く傾いて崩れた。


「あ、お、おい!?」



慌てて神田は駆け寄り玲子の身体を支える。


「おい玲子!玲子!?」


ぐったりと身体を神田に預ける玲子からは、弱々しくだが呼吸の音が聞こえた。


「驚かせやがって……」


神田は玲子が気を失っただけだと確認すると、ほっと溜息をつき玲子を横抱きにした。












『何でここに連れて来た!!』


暗い闇の中で玲子は叫んだ。


「だから言っただろ?もう一度あいつらと会ったら無理矢理にでもって」


男は声を荒くする玲子とは対象的に落ち着いた声色で喋り出した。


玲子の意識はこの男によって奪われたのだった。


玲子は無理矢理連れて来られた事に腹を立てている。


「でもまぁ、簡単にここに連れて来れたのは俺だけのせいじゃねぇよ?」


『…どういう』

「意識が簡単に奪えたのは、お前が弱っているからだよ」


玲子は、この所殆どの時間をアクマ狩りで使っていて、寝ている時間が殆ど無い。


寝ていない状態に近かった。


体力的にも限界が迫っていて、気力で立っていたようなものだった。


「恨むなら、寝ていなかった自分も恨めよな」


そう言うと、大体は玲子は押し黙る。


何も反論が出来ないから。


寝れないのは悪夢を見るからで、確かに自分が悪いのだ。


男はそれを知って尚、玲子に言うのだった。


悪いのはお前だ、と。


睡眠を取るのと取らないとでは大分違うのだ。


悪夢を見るのは精神的には辛い事だが、体力は少なからず回復する。


今の玲子にはそのどちらともが欠けているのだ。


「寝ない、お前が悪いんだよ」


繰り返し、男は玲子に言った。


『…んな事、分かってるよ…』




分かってる、分かってるよ。


頭では分かっていても、出来ないんだよ。


寝たいって、そう思ってもどうしても寝させてくれないんだ。


自分の見る夢が夢じゃ無い気がして、気になって恐くなって。


恐いものは恐いんだ。


仲間の人達を消してしまうんじゃないかって。


不安で、とてつもない恐怖が襲って来るんだ。


追い撃ちをかけるように悪夢にうなされ、現実と夢とがごちゃごちゃになっていきそうで…。



分からなくなっていくんだ。



あたしはどうしたらいい?



『…助けてよ…』



誰か、あたしを助けて。



どちらが本当か、誰か教えて。



誰か


誰か…。




玲子は縋り付くようにまた意識を手放した。



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