story

□おかえり、おかえり
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神田の放った言葉を聞いたラビは呆然と神田を見上げている。


そうか、遠ざけていたのは自分自身だったのか。


ラビは自分ですら気付いていなかった気持ちに気付かされ、驚きつつも笑みが込み上げてくるという不思議な気持ちに駆り立てられた。


「…ユウは、凄いな」


自然と零れた言葉にラビは更に驚き口を手で覆う。


神田は玲子の事を分かってる。


神田が玲子に対するその体制がラビは羨ましいと思い、ラビはどこかで嫉妬の渦を巻いていた。


神田は玲子の事をよく知っている。


きっと、自分以上に。


それが無性に羨ましくて、悔しくて。


複雑か感情が渦を巻き、深く深くラビを追い込んで行く。



「はーいっ!一段落着いた所で」



コムイの突然な発言にはっとラビは我に返る。


「(いかんいかん!何嫉妬してんだオレっ!!)」


ラビは自分の頬を両手でバチンと叩き、自分の世界から目を覚ます。


この時、ラビはこの嫉妬の意味を深く考えていなかった。



傍から二人を見ていたコムイは頃合いを見計らって再び話に参加をする。


「じゃあ二人の仕事はもう決まりだね♪」
「「……は?」」


にこにこと二人を見つめているコムイは流石大人といった所だろう。


余裕の笑みを絶やさない。


「君達は玲子ちゃんの捜索及び保護し、連れて帰る事。いいね?」


「あ、あぁ」
「おうさ!」


有無を言わさない笑みを向けられ、神田は多少吃り、ラビは意気込む。


だがコムイの怪しい笑みは未だ消えていない。


嫌な予感が二人の頭に過ぎる。


「…コ、コムイまさか…」


「さあ、早く行って来れたまえ!」


「でぇぇええぇ!?い、今から?!」


「当たり前でしょう?何の為のお仕事なんだい?ほら!玲子ちゃんの捜索!早く行きたまえ!さぁ!さぁ!!さぁ!!!」


「だっ…、だって今は夜…っ!」

そう、玲子を発見した時は既に昼を過ぎていて、更に場所が場所だったため、ギリシャからの帰還となるとかなりの時間を使ってしまい、辺りは一面黒色に染まっていたのだった。


「夜だの何だの言ってないで早く捜索っ!ホラ行った行った!」


「えぇ!マジでっ!?ちょっとは休ませ…」

「えーとー、取りあえず行き先はギリシャでー、まだ玲子ちゃんがいる可能性もあるから、ギリシャ周辺の国も捜しといてー」


コムイはラビの抗議を遮り、何時もの押し付けがましい口調で仕事を与えた。


「夜だからって休んでる暇はないよ!さ!」


ファインダーの水路で立ち話をしていた神田とラビをコムイは無理矢理舟に乗り込ませた。


「取り敢えず君達二人は玲子ちゃんを見つけだすまで帰って来なくて良いからね?あ、それとアクマは何時も通り壊しておいてね」


それじゃあ頑張って、と最後に付け足すとコムイは舟と岸を繋いでいたロープを外し舟を引き離した。


舟が川の流れに乗って進んで小さくなって行くにつれて、「鬼――!!」だとか、「アクマ――ッ!」などという叫び声が聞こえていた。



「…はしゃぎ過ぎですよ、室長」


こっそりと成り行きを影から見ていたリーバーが顔を出していた。


それに気付いていなかったコムイは少しだけ驚くと、直ぐさま子供のような笑顔を浮かべた。


「だって、凄く嬉しかったんだもん」


コムイは純粋に喜び笑顔を作る。


リーバーはそんな子供のようなコムイを見て、つられて笑ってしまった。


「そっすね。俺も、嬉しかったっす」


玲子が生きていた、失踪していなくなった子が、元気だった。


それを聞いてどれほど心の底から安心したことか。


コムイは流れる川の流れに視線を落とす。


「…頼んだよ神田君、ラビ」


流れに沿って消えて行った二つの影を見送りながらコムイはぽつりと呟いた。


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