story

□平穏、不穏
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『アクマはイノセンスでしか壊せないと言いますが、このアクマに改造された針なら他のアクマにもダメージを与えられると思うんです』

「…目には目を、歯には歯をって感じかい?」

『はい』


いつになくコムイの顔は真剣だ。恐らく玲子の持っている針に興味を抱いたのだろう。
科学班の一部も玲子の意見に耳を傾けている。


『そんな感じでこの針をもっと手軽に改良して、他のファインダーに配ることは出来ませんか?』

「…え?」

『身を守るタリズマンにも限界はあります。この針はレベル2のアクマが悲鳴を上げたくらいですから、そこそこの殺傷能力はあると思います』

「や…、そうじゃなくて」


コムイは玲子の発言に驚きを隠せない。コムイだけではない、話を聞いていた一部の人々も驚いていた。

何故驚いたか。

それは玲子が言った他のファインダーに配布するという事。コムイはてっきり自分が所持する為に改良して欲しいと頼まれると思っていた。


『この針が他のファインダーに渡れば犠牲は最小限になると思います』


犠牲者が減れば悲しむ人も少なくなるはず。護身用になるかはまだ分からないが試してみる価値はある。


『きっと役に立つと思うんです。…お願い出来ますか?』


玲子は伺うようにコムイを見た。


「…分かった。やってみるよ。ありがとう玲子ちゃん」

『ありがとうございます…!』


玲子は深々とコムイに頭を下げた。玲子とコムイのやり取りを聞いていた一同は皆、穏やかな顔つきになっていった。







『失礼しましたー』


科学班の扉を閉めて三人は玲子を真ん中に船場へと続く廊下を歩いて行く。


「それにしても良い提案だったさ玲子」

『そう?ありがと』


玲子の考えに賛成するラビとは反対に、神田は玲子を見て眉間に皺を寄せる。


『神田?』

「そんなん皺寄せてっと皺が定着すんぞ?」

「…切るぞ、てめぇ」


六幻を手にラビを威嚇する神田。間に挟まれている玲子は仲裁に入り神田を落ち着かせる。


「お前は甘いんだよ」

『? なにが』

「…さっきの話だ」


さっきの話、針の事だろうか。
…そういえば、この話を仕出したら神田はだんまりになっていた気がする。


『何だ、その事か』

「何だじゃねぇよ。お前の身はどうやって守るんだよ」

『…え?』

「他人の身は守って、自分の身は守らないつもりか?」


あぁ、そういう事か。
何だかんだ言って神田は心配してくれるんだ。

自己犠牲を嫌う神田。


『ご心配ありがと。でもあたしは大丈夫だよ』

「何の保証があってそんな事が言える。そういうのが自惚れっていうんだよ」

『でも、あたし神田の攻撃避けたじゃない』


玲子はにこやかに、そして笑顔と共にさらりと言う。その言葉に神田はどもり、ラビは驚いていた。


『あたしにはこの動体視力があるし、反射神経もそこそこある。だから大丈夫、だと思う』


最後に付け足した言葉に神田は肩を落とす。


「あのな、それじゃあ意味ねぇだろ…」

『あたしは他のファインダーに機会を与えただけだよ?』

「…は?」



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