story

□平穏、不穏
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コムイはその声の主がいないはずの室内を見た。そこには、いないはずの声の主、玲子が扉の所で立っていたのだ。


「玲子…ちゃん…」

『あの、その…報告書出すの忘れてて…』

「聞いてたの?」

『…ごめんなさい』


コムイは額に手を当てた。


『…迷惑かけるつもりは無かったのに…』


違うんだ。


『…それじゃあ報告書ここに置いておきます!行ってきます!』


玲子は慌てて科学班から走って出て行った。その背中を見て、コムイは戸惑いどうしたら良いか考えた。

二人の会話を聞いていたリーバーはただため息を漏らすだけで。




玲子は神田とラビの元へ急いだ。


まさか自分が、あんなにコムイの不安材料になっていたとは知りもしなかった。

コムイの本音を聞いてすっきりした反面、やはり傷ついた。

何でイノセンスに魅入られなかったのだろう。そうしたら迷惑かけずに済んだかも知れないのに。

やっぱり、この世界とは相入れないのかな。


(…つらい)


あたしはここにいるだけなんだ。


『…あー!もう!これから任務なんだから!!』


忘れて、今は任務の事に専念しなくちゃ。玲子ひたすら船場へと走った。




一方、玲子待ちの神田とラビ。

二人は既に船場へ到着していた。


「ちょっと遅いさ」

「…」


今は神田と二人だけ。
沈黙の中、ラビは医務室での事を思い出した。

神田は相変わらずつんけんしているが、玲子の前では少し態度が違う気がする。
ラビはそんな神田に少しばかり嫉妬していた。


「…なぁ神田」

「…」


無視ですか。


「神田は玲子の事…」
「あ、いたいた!よかった間にあって」


ラビの聞こうとした事は、リナリーの高い声によって掻き消された。


「リ、リナリー?何でここに?」

「…玲子が何だ」

「? どうしたの神田?」

「何でもないさ」


ラビは少し膨れて話をぼかして止めた。


「そういえばリナリーは何でここに?」

「あ、えっとね、玲子にまだ改良したファインダーの服を渡してなかったの。これ」


リナリーは右手に持っている紙袋をラビに突き出して頼んだ。


「私もこれから任務で渡せないの。だから変わりに玲子に渡しておいて?」

「OK、渡しゃあいいんだろ?」

「うん。それと、必ず着替えていく事、無茶しない事も伝えて」

「了ー解」


用件だけすませると、リナリーは来た道を戻っていった。入れ違いになるように次にはちゃんと玲子が走って来た。


『お待たせ』

「遅ぇ…」

「お帰り、これリナリーから」

『ん?』

「ファインダーの服だとさ」


あ、と声を上げて玲子はラビから紙袋を受け取る。
紙袋の中にはファインダー服の他に、下に着る薄手の服やらが揃っていた。

準備の良いリナリーだ。


「必ず着替えて行けってさ」

『え………、ここで?!』

「「…後ろ向きます」」


少し顔を赤らめて二人は玲子に背を向ける。

玲子は二人の前で着替えるのに抵抗があったが、渋々着替え始めた。神田とラビの背後からはもそもそと衣類の擦れる音がする。


「…お前、絶対振り向くなよ」

「神田こそ!んな事言って見んなよ!?」

『黙って!』

「「…はい」」




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