story

□平穏、不穏
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『だから、後は個人の問題。それを使って生きるか死ぬか二つに一つ』


納得行かない神田にはこれくらい言わなければ聞かないだろう。
自分の身は自分で守れ、そういう風に言わないと神田は腑に落ちないこと玲子は知っている。


『神田はそんなに自己犠牲が嫌い?』

「大嫌いだ。んな事するのは馬鹿で甘い奴だ」

『…じゃあ神田も馬鹿で甘い奴じゃん』


玲子は神田に聞こえないような小さな声でぼそりと呟いた。

よく言うよ。
神田だって"あの人"っていう人の為に命削って戦ってるくせに。

玲子は心の中でそうぼやいていた。



『…あ』

「どうしたさ?」

『報告書出すの忘れてた!』

「…マヌケ」

『うっさい!じゃ、もう一回行ってくる!』

「いってらっさーい」


ラビは猛ダッシュで走っていく玲子に手をヒラヒラと振った。







科学班では玲子の出した提案について話し合いがされていた。
この光景を眺めつつ、コムイは別の事を考えていた。

玲子の事である。
玲子が気絶している間、少しだけラビに話を聞いた。

教会にアクマが出た事。

それからアクマが玲子に言った事。

伯爵が狙っているとはどういう意味か。

何故アクマは懇願するように言ったのか。

そして何故アクマに自我とは別に記憶があったのか。



コムイは安全だと思われる所をピックアップし任務という名で玲子を出した。しかし本当は、任務でもなんでもなく教団から玲子を出しただけなのだ。

玲子の顔が広く知られないように男装もさせた。
なんせ玲子は中性的で整った顔なのだ。目立たないはずがない。

未知な玲子を知る為に、色々と調べようと思った。
だから教団にある書類を隅から隅まで目を通した。だが玲子がいない間に分かった事は過去ない異例の出来事だという事だけ。


「室長」


考え込むコムイにリーバーが話し掛ける。


「考えてる事は大体分かります。ですがもうそんなに疑わなくても良いんじゃないですか?」


リーバーは玲子が持って来た針を片手にコムイに訴える。


「玲子は怪しくない、優しい子じゃないですか」

「…そうだけど」

「俺は玲子の考え方は好きですよ?」

「僕もそう思うよ…」


犠牲を出さないように考えていたのは本当に嬉しかった。

中々出来る事じゃない。

だが、玲子との出会い、任務の事を考えると分からなくなる。


「…室長は玲子がイノセンスに適合しないかぎり信じないんですか?」


リーバーは中々はっきりしないコムイに苛立ち始めた。


「そういう訳けじゃ…」


ないけど…。
でも、玲子の謎は深まるばかりだ。


「玲子ちゃん…」


分からない、こんなに考えても分からないのは初めてだ。いっその事、本人に聞いた方が早いのだろう。
だが、それを止めているところがある。

コムイは怖いのだ。

もしも玲子が教団側の人間じゃ無かったら、それなりの対処をしなければならない。

その"対処"がコムイは怖いのだ。

イノセンスにさえ魅入られていればこんなに悩まなかっただろうに。


「一体君は何者で、何が目的なんだ…玲子ちゃん」


思わず、考えていた事が口から出てしまった。





『……え?』



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