story
□月日始まる刻 前編
6ページ/10ページ
教団側に入ったばかりだというのに、早速人を疑い始めた。
こんな事がこれから続くのだろうか。これから自分達が守っていく者を疑いながら。
虚しいと思った。
「どっ、泥棒ー!!」
不意に聞こえた荒けた声に、街行く人々は振り返る。バッグを抱えて走って行く男が一人。
「誰か捕まえてー!!」
バッグを盗られた女性は必死に叫ぶ。
「しゃーねぇ、いっちょやるか」
ラビはまだ慣れていない自分のイノセンスを取り出す。
「大槌小槌…」
ラビがそう唱えている時に、女性に帽子を被った人が近寄る。
『大丈夫ですか?お怪我は?…後は任せてください』
そう言って犯人へと駆け出した。
その人は犯人と取っ組み合いになり、バッグを取り返そうとするが、犯人はなかなか放さない。その状況を見て、ラビは加勢すべきか迷う。
しかし、ラビが迷っている間に事は済んだ。
『…はっ!!』
犯人を捕まえようとしていた人が、犯人を大きく回転させ投げ飛ばし押さえ付けたのだ。
「すげー…」
ラビは心の底からその人物を尊敬した。
『誰か警察を呼んでもらえませんか?』
そう叫ぶと、反対方向から警察が走って来た。
「話は被害者の女性から聞いています。ご協力感謝致します」
警察は犯人を連れて行ってしまった。
ラビは投げ飛ばした人物に興味を持ち、近寄る。
「凄かったさ。そんなに細いのにどうやって投げ飛ばしたん?」
『え…?』
いきなり話し掛けられ、驚いているようだ。ラビが話し掛けた人物は驚いて固まっている。深く被っていた帽子を上げてラビの事を見た。
一瞬、息をするのを忘れていた。
ラビは帽子を上げた人物に見惚れていた。
『あの…?』
覗き込んでくるその人になぜか鼓動が速くなる。
「あっ、いや…何でもない」
『そうですか、それじゃあ俺行きますんで…失礼します』
「あ、おう…」
走り去っていく人物をぼけっと眺めているラビ。
………ん?
……俺?今あの子俺って言った?!
って事は…あの子男なん!?
「ショックさぁ…」
好みの顔だったのに、とラビは落ち込む。
.