story
□序章
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《お前はそれを分かっているんだな》
今時にしては珍しい者だ。
『んー、分かるって言うか、自分だったら面倒だなーと思って…?アハハ』
《それでいいんだ。自然体のお前だからこそ、行かせる意味がある》
さほど意識していなかったようだが、返ってそっちの方がいいだろう。
《これから、私の世界である所にお前を落とす》
『…は?』
《言葉の心配はしなくていいからな》
『え、イヤちょっと待て!!』
玲子、必死です。
さっきまでは遠回しに、「行って欲しいな」的な頼み方だったのが、打って変わって「もう決まった事だから文句は言わせん」みたいな強制的言い方になった。
《何だ?言葉なら心配いらんぞ》
『違うって!神なら自分で何とかしなさい!!』
《お前がさっき何もしなくていいって言ったじゃないか》
『言ってない!言ったとしてもそういう意味でじゃない!!』
《えーと、これからお前が行く所は〜》
『勝手に進めるな―!!』
玲子を無視して男は進める。
《ん?気にならないのか?違う世界が》
『そりゃ、少しは…。でも行くとは決めてない!』
《お前の行きたい世界だとしてもか?》
『ぇ…!?』
あたしが行きたい所。
イギリスとか、フランスとか、中国とか、日本国内だったら京都。全部地球上じゃん。
地球以外で行きたい所…。
何処だろう。
目の前にいる男はニヤニヤしながら玲子を見る。
『(勿体振らないでさっさと言えよ)』
じろー、と男を睨む。
男はその反応でさえ楽しんでいるように見える。
《…知りたいか?》
『勿論バッチリ凄く知りたい』
似たような意味の単語を並べて玲子は即答する。
《そんな簡単に教えるとでも…》
『思わない。条件かなんかあるんでしょ』
心の中で舌打ちをして、男の言葉の続きを予想し、答えた。
《よく分かってるじゃないか。そうだ、条件がある》
『何?』
《“私の世界に来る事”、これが条件だ。簡単だろう?》
『…だと思ったよ』
溜息をつき男を見る。
『…行く。』
男はニヤりと笑った。
『ほら、そっちも教えなさいよ!』
《そうだったな》
『んで?何処??』
《お前が行く世界は…》
『勿体振るな。あたしはそういう遠回しにするのが一番嫌いだ』
《怒んなって》
『……』
《ま、行ってから確かめろ》
『は?』
《行くまでのお楽しみさ》
『…(いきなりフレンドリーになった。)約束守って無いじゃん』
《そのかわり向こうの世界では不自由にならないようにするからさぁ》
『もう何を言っても無駄見たいだね。で?』
《?何だ?》
『行くのは良いとして、ここでのあたしはどうなるの?』
もし、向こうの世界に行ったとする。
それは意識だけ、言わば幽体離脱状態なのだろうか。
それともこの肉体ごと、向こうの世界に行くのだろうか。
だとしたら現実世界では行方不明になってしまうのだろうか。
《その事か…。それなら心配ない。此処が夢の中だというのは気がついてたか?》
『ん、何となくだったけど。やっぱりそうなんだ』
無駄に広い暗闇は、果てしなく続いている。
それに宙を浮いているような感覚。そんな感覚は始めに思ったように死んでしまったからかと思った。
だが、その事はこの男に会った時に否定された。他に、現実や重力がある所で浮くなんて事はまず有り得ない。
だからもしかしたら此処は…と当たりをつけていた。
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