story

□序章
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《お、お落ち着け》

『これが落ち着いてられるか!!人を何だと思ってんだお前!!!』

《そんなんだから女にモテるんだよお前は…》


玲子ははっとして、落ち着きを取り戻した。相当自分の世界でいろいろと味わったのだろう。顔色が少しばかり悪い。


『…で、その一刻を争う事って?』


わざとらしい咳ばらいをして少し落ち着いたのか、声色が安定している。


《あ、あぁ。私の世界が滅びへと向かっているのだ》

『ふーん。大変だね、で?』

《その滅びへと向かわかないように食い止めて欲しい》

『アレ?あたしもしかしてまだ劇の途中?』


と言い、玲子は自分の頬を抓った。頬はそれを裏切るように、痛みが走った。


『いっ!…あ、これは夢から覚める方法だった…』

《…一人突っ込みして楽しいか?お前》





『楽しい訳無いじゃん。現実逃避してんの』


《…ははっ、成る程。でもまぁ、そんな事しても無駄だ。お前には必ず行ってもらわないと困る》


『勝手に困ってください。あたしは帰らせてもらいます』


玲子は背を向け、拒否の体制をとった。


《お前の力が必要なんだ》


不意に近づいて来て聞こえた声に驚き振り返ると、さらに驚いたものが目に入ってきた。


今まで姿を現さず暗闇の中、気配でしか確認出来なかった声の主が姿を現した。


容姿、声からして男性である事が確認できた。


《お前の力が必要なんだ》


男は再度、玲子に話しかけた。


玲子は驚きつつも、なぜ自分なのか疑問に思った。


『…何で、あたしなの?』


一番の疑問はそこだ。


なぜわざわざ呼び出されなきゃならないのだろう。


《お前でなければならないんだ》


『だから何で』


《世界が、違うからだ》


世界が違う?


国が違うということだろうか。


『地球上ならあたし以外でも適任がいると思うんだけど』


《お前でなければならない》


『何で?住んでる所が同じの方が価値観も分かるじゃん。何も解らないあたしが行くよりマシなんじゃないの?』


《世界は必ずしも地球上とは限らない。時空を越え、現れるもの…》


『(また訳の分からないことを)』


《地球上では無いと言うことだ》


『地球上じゃ無かったら何なのよ?』


《結論から言えばこれから別世界に行ってもらう》


べ、別世界?なんでまた??


『なら尚更あたしが行くわけには行かないじゃん。その世界の人に頼みなって!』


《こちらの人間だからこそ、手が出せない事もある。だから呼んだのだ》


『……』


だんだん何が言いたいのか、分かるような、分からないような…。

玲子は一人悶々と悩んでいる。


《…お前は、神が世界に直接手を出してはいけない事を知っているか?》


男は悩んでいる玲子を差し置いて、玲子に質問する。


玲子は突然の質問に驚きつつ、一応返事をする。


『…そりゃ、いけないんじゃないの?神様が直々に手を出したら人間こんなに醜くなってないよ。それに…』


《それに?》


『その事にいちいち神様がしていたら人間は平和ボケして、生きる術が解らなくなると思う。神はすべき事をすればあとは人間が自分で何とかするさ』


『神は、人間を生み出す事が一番の仕事だ。後は見守るだけでいい』


男は玲子解答に驚いたが、次に笑った。


この少女、なかなか面白い事を言ってくれる。


今までの人間は平和を願い、神とかそういう物に乞い、都合が悪いときだけ人間が勝手に創り上げた“神様像”に縋る。


何かあれば神のせい。


何もしてあげられないのだからそれは仕方ないと割り切るしかなかった。


だが、何もしてあげられないこちらはこちらで辛かったりする。


人間は皆自分勝手で愚かだと、何処かで思っていた。


だが


この少女は違う。


自分の醜さ、愚かさも全て受け入れている。


そして自分の中に渦巻いていた心を気付かせてくれた。



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