story
□序章
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辺りは暗闇が広がる。
身体は浮いているような、ふわふわした感じ。
落ち着かない、と思った。
『(…あたし、どうしたんだ…?)』
そして、今何が起こったか思い出してみる。演劇をしていて、クライマックスにかかった所で確か…
玲子は自分に何が起こったかを思い出した。
『(そうか…、あたしは照明が落ちてきてそれで…)』
玲子は顔を下に向けた。辺りは暗闇で何も分からない。
分かった事は一つ。
『あたしは、死んだのかな…?』
こんな真っ暗闇の中で、ふわふわと浮いていて、此処に来る前には照明が落ちてきて…。そういう風にしか考えられなかった。その玲子の問い掛けに答えが返ってくることは無いのに、聞きたかった。
『…あたしは死んだのか…』
だれも否定してくれない。
否定してくれないから、受け止めなければならない。分かり切っているのに、今だ信じられずにいる。
無償に悲しくなってきた。
涙が出そう…。
《…そんな訳ないだろう》
不意に聞こえて来た声に玲子は顔を上げる。
『…空耳か…』
《違うと言っている》
『へ?』
今度こそちゃんと聞こえたようだ。
『誰?何処にいるの?』
玲子の言った通り、辺りは暗闇が広がっていて何も見えない。人の気配すら把握出来ない。だが、話し掛けてきた“人”は構わずに話す。
《今、お前は気を失っているだけだ》
『…え?本当に…、あたしはまだ生きてるの?』
自分は生きてる。
生きてる。
その生への喜びで、玲子の頬に一筋の涙が流れた。
『…ありがとう…教えてくれて…』
安堵の涙が流れた頬を玲子は指で拭う。
『あなたは?』
此処にいるなら、きっとそこにいる“人”も何かしらの事情で気を失い、此処に来たのではないかと玲子は考えた。だったら一緒に意識を取り戻そう、そう思ったのだが。
《私はこの世と時空の境目の者》
玲子の予想を遥かに越えた答えがその人から返ってきた。この答えには流石の玲子も驚いた。
『こ…この世?時空の境目?』
《此処は、違う世界》
『…ん?』
違う世界とはなんだろう。
《そして、お前を呼んだ》
『…あの、何が?』
玲子はその人の言っている事が理解出来なかった。話の接点が分からない。自分は気を失っているから此処にいるのではないのか。
呼ばれて意図的に此処に来たのだろうか。しかし何故呼ばれなくてはならなかったのだろうか。
《お前をこの世界に呼ぶには、気を失ってもらわなくてはならなかった》
『…はぁ(人の話聞いてないし)』
《普通に気絶させる事も出来たのだが、それでは不自然だと思ってな》
『だから?』
そう話を促すと、その人は少し黙るとこちらをじっと見た。と言っても気配だけなのだが。何やらこちらの反応を確認しているようだ。
《照明を落としたのは、私だ》
『はぁ!??』
この人今何て言った?
脳が混乱しているので理解するのに時間が掛かった。
《何も無い所で突然気を失ったら不自然ではないか》
『なっ…、なっなっ!』
《私はそのきっかけを作ったにすぎん》
『…ッ!(偉そうに!!)』
《安心しろ、お前の身体には外傷は無い》
『そういう問題じゃねぇぇ!!』
玲子は怒りで言葉が出てこなかった。
お落ち着け、玲子。
冷静になれ、玲子。
『た、確かにそうだけど、他にも手段があったんじゃないの?』
《一刻を争う時だったんだ》
『照明落としてる暇があったらさっさと連れてきゃいいだろうが―――!!!!』
玲子は爆発してしまった。
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