story

□序章
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「女の子が大怪我するのよ?あんたのせいで」

『う…』


なぜか玲子は“女の子に傷が付く”という言葉にめっぽう弱い。女生徒は玲子がこの言葉に弱い事を知っており、それを逆手に持って来たのだった。
一方玲子は、自分より儚げで、か弱い子がこんな事出来るはずがなく、心が揺らいでいた。

確かに自分は反射神経は悪くない方だ。恐らく矢は射るタイミングさえ分かれば簡単に避けられるだろう。
刀の方は適当に受け流せばいいし。


『くっ…、…………分かったよ』


苦渋の選択の末、玲子はその役を了解してしまったのだった。

玲子は女生徒の策略にまんまと乗せられ、忍役をやらされることになってしまった。


「ありがと!」


半ば強制的に事を進めた女生徒は怪しげな笑みを玲子に見えないように浮かべ、御礼を言う。

一方、玲子は強制的ではあったが引き受けたからには最後までやらなくてはならないと考えていた。矢の避け方から、刀の受け流し、それから忍役の命でもある手裏剣やクナイの投げ方。

これらを完璧にこなさなければ、演劇は台なしだろう。何とかなるのは、矢の避け方、刀の受け流しだ。
しかし問題なのは、手裏剣・クナイの投げ方だった。

こればかりは練習をしないと出来ない。適当に投げればいい様な物では無いからだ。


実際に投げてみて分かった。
手裏剣はクルクル回って飛んでいかなかった。しかもブーメランのように戻って来る。
これはこれで凄いのだが、危なくて仕方がない。


クナイは………、問題外だった。


どうやっても某ジャンプの某忍者漫画のようにはいかなかった。あんな格好良く真っ直ぐには投げられなかった…。


『(縦に回転していくのって無しだよね…)』


この投げ方については流石に悩んだ。


『ねー、クナイが真っ直ぐ飛ばないんだけど』

「えー?玲子が分かんないならあたしらも分かんないよー」

『…』


適当にあしらわれて終わった。






本番までにはちゃんと真っ直ぐに投げられるようにしとかないと。

頼れる人は、ここにはいない…。




そんなこんなで今本番が始まろうとしている。


『(大丈夫、練習は毎日したし、コツも掴んだ。今日も上手くいく…はず)』


玲子は自己暗示をして緊張を落ち着かせようとした。観客が予想していたものよりも遥かに多いのだ。緊張しない方がおかしい。
玲子は汗をかいていた手はギュッと握り締めた。



開演の時間になったのだった。



序盤、中盤となんのミスもなく順調に進んだ。

このあとはクライマックス


姫を守るために手裏剣やクナイを投げるシーンだ。


『(いけ!)』


玲子は心の中で上手くいくことを祈りながら、クナイを放つ。玲子は練習中に掴んだコツを確かめるようにし、クナイを投げた。クナイは練習通り、真っ直ぐ飛んでくれた。



『(よし!)』






――そう喜んだ瞬間だった――…










ガシャンッ!!!








一瞬の出来事だった。



ステージを照らしていた照明器具が玲子を目掛けて落ちて、玲子はその天井から落ちてきた照明器具の下敷きになってしまった。


玲子は何が起きたかまだ理解しないまま、気を失った。

周りが騒ぎ出すと同時に…。




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