story

□冷たい理由
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『結構離れたな…』


振り返ってももう何も、誰もいない。

自分の足音だけが聞こえる。

静寂の中、一人黙々と奥深く、さらに離れていく。

後ろを振り返りまた視線を前に戻す。

まだだ。まだ、もっと奥の方に…。

玲子は自分が追っている気配を探り、また深く足を踏み入れる。

風も音も何もない。

ひたすら目的に向かって行く。

景色がだんだん変わっていく。

道が道でなくなり、獣道になり、そして辺りは林になった。

…もう一度後ろを振り返る。

林で埋め尽くされ何も見えない。

これは本格的に戻るのが困難そうだ。


『…!?』


視線を後ろから前へ移せば、幾数の気配が感じ取られる。

玲子はすっと、前だけを見据え、自分に向けられている殺気を体全身で感じ取る。


『…いるんだろ?出て来たらどうだ』


そう口にすると、林の中からアクマが次から次へと姿を現した。

先ほどアレンが破壊していたアクマの数を遥かに上回っている、この大群。


殺気はある。

だが、襲ってくることはなかった。


『追って来たわりにはおとなし過ぎるんじゃない?……何の用?』


玲子がそう問い掛けると、アクマ達はざわつき口を開いた。


《伯爵サマ呼んでルよ》
《ノア様も呼んでるヨ》
《ボクラモ、君を待っテルよ》


次々と言われる言葉を玲子はきちんと聞いている。


『どういう意味?』


言ったままの意味だろうが、その真意を未だ知らない。

もう何年もアクマに追われ伯爵にも追われている。

アクマには襲われもする。

けれど、酷い怪我にならない程度にしか攻撃をしてこない。

…何故?

まるで、こちらの攻撃力をわざと上げているかのように思える。

疑問に思うことはいくつかある。

そのわけを知りたくてこれまで戦って来た。

でも、その問いは聞く前に拒絶されてしまう。

アクマ達は答える事なく自爆するのだ。

それが、いままで分からなかった理由。


『答えてもらうよ。今回は絶対にね』

《ソンナ物、こチラに来れば分かるヨ》
《オイデ、オイデ》


また訳の分からない事を言って質問をごまかす。

何故と聞いているのだ。

それを来なければ分からないという。

…まるで話にならない。


《来ないの?来ないノ?》


はあ、とため息をつきたくなる。


『…はっ、行く訳無いでしょ』

《ザンネン♪》


ニタァッと笑みを漏らすと、アクマ達は次々と戦う体制に入る。

何が残念だ。楽しそうに笑いやがって。


『イノセンス発動』


発動と同時にアクマが襲い掛かる。

四方八方から来る攻撃を難無く躱し、その度に一睨みしてはアクマを灰化させていった。

レベル1のアクマでは、武器を作るまでもない。

睨み付けるだけで十分だ。


『!!』


より強い殺気を感じ、即座に上へ跳ぶ。

着地をする暇もなく次の攻撃がくる。

玲子は空中で自分の周りを莫で覆い、さらに大きな球体も作りだす。

玲子に向けられた攻撃は莫により飲み込まれ、消滅した。


『レベル2か…』


莫で攻撃を回避したと思ったが、まだアクマはいたらしく僅かに手をかすっていた。

囲まれたか。

着地してみれば、レベル2のアクマが沢山いる。

一体一体を相手にしていくのは大変そうな数。


《モウ観念シナヨ?》

『誰が』


ふっと笑うと玲子はまた大きな球体を作った。

アクマ達は悪あがきだと笑いその光景を嘲笑っている。

頭上を雨雲の様に覆う莫をアクマ達は見上げていた。


《何だァ?》

『…くらえ、莫雨(バクウ)』


玲子がそう唱えると、頭上の莫が雨の様に降り注ぐ。

それをもろに喰らったアクマ達は雨に当たった部分から消滅していき、悲鳴を上げ消えていった。



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