story

□冷たい理由
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『…ふう…』


アクマが全ていなくなったのを確認すると、玲子はイノセンスの発動を止めた。

アレン達の所に早く戻ろうと後ろを向く。

足を一歩踏み出そうとしたとき、何かを感じた。


「おー、スゲ。これお前が全部やったのか?」


飄々とした声が背後から聞こえた。


『誰!?』


バッと振り返り、声の主の姿を確認する。

まだ近くないせいか、薄暗い林の中では人影の形しか見えない。

サクサクと歩いてくる足音。

向こうが近づいて来ているのがわかる。

薄暗い向こう側から現れたのは、燕尾服にシルクハット。


『…っ!』

「ああ、警戒しなくてもいいよ。俺はあんたとやり合う気はないから」


両の掌を見せてひらひらと振る。

向こうはまだ近づいているようで、また近くなった距離。

お互い、しっかりと顔が見られる近さになった。


「はじめましてお嬢さん。俺はティキ・ミック。お嬢さんは?」

『…月宮…玲子』


やはりな、といわんばかりにティキはふふっと笑いを零した。


「…そうか…」


未だに警戒は解かない玲子を見て苦笑いするティキ。


「やっぱ無理か…」


また苦笑いをする。

そして、その笑いが消えたとき玲子は驚いた。

ティキは、真面目な表情をしてこちらを見ている。

戦う、のだろうか。

それにしては、殺気が感じられない。

何なんだ。


「…玲子」


真面目な顔をして、口を開いたティキ。


「俺と来ないか」



『……えっ…』


笑う事などせず、真剣な顔で確かにそう言ったティキ。

ティキの言葉に玲子はただ驚くだけ。


『…そ、れは…伯爵側につけってこと…?』


ティキの言った言葉の意味は、そういう風にしかとらえられない。

どういう意味だか、まったく分からない。

敵を迎え入れてどうするつもりだ。

目的はイノセンスの破壊か、それとも…別な意味があるのか。


「違う。俺個人について来ないかって事だ」

『どういう…』


混乱していてうまく頭が働かない。


着いてこいとはどういう意味?


「まあ、俺が千年公の所にいる以上、そうとらえても仕方ないか」


わるいな、と笑うティキ。

玲子は困惑して、頬につと汗が流れた。


「(千年公が欲しがっている…か)」


この少女を、あの人は何に使うというのだろう。

千年公のことだ、教団をパニックに陥れたいのだろう。

様々な策を練って、余興を一つとでも考えているに違いない。

けど、何で彼女なんだ?


「脅すつもりはない。けどな、もしかしたら俺と居た方がまだ多少は安全かもしれないんだ」

『っ!』

「何が起こるかもわからない」


この俺にだって、まだ先の事はわからないからな。


ティキはタバコに火をつけ、煙を吐き出す。


「で、どうかな。こっちに…」
『行かないっ!!』


声を遮られ驚きはしたが、あまりにも必死に言ったようで、笑みが零れてしまった。


「そんなに急いで答えなくていいよ。今度会ったら、その時に返事くれない?」

『だ、だから…っ、意味が分からない』


ティキは意味?と呟くと、ふと笑った。


「欲しいだけさ。俺が、お前を。ただそれだけ」


そう言って、ティキは消えた。



しばらくの間、ティキに言われたことが頭をぐるぐると回っていた。

ハッと我に反ってティキの後を追おうとする玲子。


『ま、待て…!』


後を追おうとしたが、どこから現れたのかレベル2の数十というアクマが道を阻む。


『ちぃ…っ!』



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