story

□一つの願い
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《なんだぁ?やけにイラついてんじゃん神田》


三日月が夜を照らす街。

月に隠れて怪しい形をしたモノが一つ宙に浮いていた。


「イラついてねぇよ」

《そうか?声色が低くなっているぞ》


神田の班はとある街を訪れていた。

三人別々に別れ、ひっそりと身を隠し辺りを見渡し無線で会話をする。


《…ザッ…、イライラしてっと幸せ逃げちまうじゃん?》


別に、と答える声は明らかに不機嫌でムスッとした表情をしている神田が容易に想像できてしまう。

何とも可笑しい奴だとデイシャは笑ってしまった。


「うるせ。もやしみてぇな事言ってんじゃねぇよ」

《モヤシ?》

《…モヤシとはなんだ神田?》


神田は面倒臭そうに、この間入団したあまっちょろい馬鹿な奴だと簡単に説明してやる。

入団早々神田と共に任務をした奴と付け加えると、デイシャが何とも言えない声を発した。


《ザザッ…う、わー大変だったなそいつ初任務が神田と一緒とか》


さぞきつかった事だろうと面白おかしく言えば、神田は更に不機嫌になる。


「うるせぇ。モヤシの話なんざするな、胸糞わりぃ」


低い声でボソッと呟くと一瞬無線の向こうがシン、と静まり返った。

自分からモヤシといっておきながら、とマリは思っていた。

だがそれを言えば更に不機嫌になると思ったためもう何も言わないようにした。

だが、


《…ザッ、そういや神田は新人に縁があるよな》


終わらせるはずの会話はデイシャによって続行されてしまった。

止めようにもデイシャは興味津々といった様子。

とめられないなと察したマリは諦めて聞き役に回った。


「なんだよ」

《…ザッ、…そういや何年か前に入った奴も神田とドンパチしたらしいじゃん?》


にひひ、とからかうように笑うデイシャ。


「は?」

《ほら入団してすぐお前にたんかきって無傷だった奴の事だよ!》
「…は?」

《神田、デイシャが言っているのは玲子・月宮の事じゃないか?》


未だに話を理解できていない神田にさりげなくフォローを入れるマリ。


要約話を理解でき神田はそれなりの反応を返した。


「…なんだ、玲子の事か」


だがその反応にデイシャがひどく驚いている。


それはもう信じられないといったかのように、驚き叫んでいる。


《うそだろ!?呼び捨て?しかも…名前で?!》


デイシャの驚き具合にさすがの神田も驚き言葉を詰まらせる。


「な…っ、何年前だと思っ…」

―思っているんだ。

そう言いかけた時には時すでに遅し。


《だがすぐに名前で呼ぶようになったのだろう?》


すかさず入って来たマリの言葉にさらに押し黙る神田、加えてゴーレムの向こうでそれ以上に驚いているデイシャがいた。


《…ガザッ…うそだろ!?マジで!?》

「…マリ、お前それどこで聞いて来た」

《否定しないって事はそうなんだ!?》

《たまたま教団に帰った時に少し噂でな》

《…俺は無視かよ!》



神田とマリは、騒いでいるデイシャを気にもせず会話を続けていた。

マリは一つ、お前のそういう行動は噂になりやすいからな、と言う。

神田はマリにたいし“地獄耳”と内心思ったが、噂はマリのせいではないためそれは言わないことにした。

なにも言わないでいると、どうやら本当らしいなと穏やかに言うマリ。

対象的にデイシャの驚き騒ぐ声はやまなかった。



《お、落ち着けデイシャ》

「騒ぐなうるせぇ」

《だって!
だってよ!神田と喧嘩して無傷で!しかも名前で呼ばれてるなんて玲子ってやつどんだけマッチョ男なんだよ!!?》


「《…は…?》」



この言葉に、さすがの二人も同じリアクションをせざるをえなかった。

ぽかんと驚く神田に、少し吹き出したマリ。


デイシャの想像している玲子像が何とも個性的で面白い。



《まてまてデイシャそれ以上言うな》

「…玲子は女だ」


《…はい?》


デイシャの誤解を解こうと結論を言えば、まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのような間抜けな声が返って来た。



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