story

□一つの願い
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「おや、玲子嬢」

「どうしたである?顔色が良くないみたいであるが…」


湯気が立ち上るお茶を手に、ブックマンとクロウリーはこちらに向かってくる玲子を見てそう言う。


玲子は苦笑して大丈夫と二人に言うとクロウリーの隣に腰掛ける。


『あ、ごめん。勝手に隣座っちゃった』

「いいである。それよりもう少しこっちに来ても平気である」


そう言うとクロウリーはブックマンの方につめ、寝転がれるほどのスペースを作った。

それをみて玲子は慌てて手を振る。


『い、いいよ…!悪いし、大丈夫だから…』


座るだけで十分だと言おうとした時、軽く目眩が生じ前へ倒れ込んでしまった。


『…あ…』

「玲子!?」


慌ててクロウリーは玲子を受け止め意識を確認する。

玲子は大丈夫大丈夫、とヘラっと笑いかけクロウリーを安心させようとした。

だがいまだに顔色が悪い玲子を見て安心しろなど無理な話だ。


「あまり無理するでない玲子嬢」

「そうである。一体どうしてこんなに弱ってるであるか」


そう言いながらクロウリーは玲子をベンチに寝かせる。

彼女は大丈夫だと言い張るが、どこをどう見たら大丈夫に見えるのだろう。

滅多にないブックマンの言葉と、心配そうに声を掛けるクロウリーにキョトンとする玲子。


『…そんなに具合悪そうに見える?』

「ああ、一目で分かるの」

「いつもの元気も無いである」


一体なにがあったのだと問うクロウリーに、玲子は言葉を濁して色々とね…、としか答えられなかった。


「今は休まれよ玲子嬢」


ブックマンの冷たい手が優しく目を閉じさせる。

それに従い玲子は目を閉じた。

ふう、と一つ息を吐き体を落ち着かせる。

そうしてみてようやく自分が弱っていることを実感した。

体が思うように動かない。

体が重く感じる。

少し、疲れているのかも知れない。

体が休息を望んでいることに今気が付いたのだ。


『…弱ってたんだ…あたしって』


自分の体の事なのに全く気付かず、放置するとはなんとも鈍感と言えよう。

自分自身に苦笑いが込み上げて来た。

そんな気の抜けた所にぺしょっと冷たいものが当たった。


『冷た…!』


反射的にその冷たいものを取り払い、驚きで起き上がる。

そこには水で濡れたタオルを持ったブックマンの姿があった。


「ほれ、当てとらんか」


驚きで起きあがった玲子の体を再び寝かせると、ブックマンは目と額を覆うように冷えたタオルを当てる。

濡れたタオルは饅頭屋から借りた物らしく、店主に礼を言っているブックマンの声が聞こえた。


『すみません…』

「なに、気にするな」


そう言ってブックマンはもとの場所に座りお茶を啜った。


「わしらが出来る事などこれくらいだからの」

『そんなこと無いですよ』


玲子はそういうが、ブックマンはそれは違うと首を横に降る。


「お主、時たまにわしらが見ておらんすきにアクマを破壊しとるじゃろ。それも大量の」

『……』


玲子は驚きで返事をすることが出来なかった。

さすが、周囲に注意を張り巡らせているブックマンは違うな、と苦笑してしまった。

確かにここ連日に渡り玲子はアクマの大群を相手にしていた。

アレンが気付かないのが不思議なくらい沢山いたのだ。

アレンにも疲労が現れて、感知能力が低下しているのかもしれない。

そんなアレンだけに負担させまいとこっそり抜け出しては破壊にいしそしんでいたのだった。



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