story

□鼓動
1ページ/9ページ







「なー、もう許して?」

『………』



ラビに背を向けスタスタと歩く玲子。


汽車を降りてからというもの、ずっとこの状態が続いている。


玲子が今こんな態度を取っているのは、きっと汽車の中での“事故”を怒っているからで。


それからずっと


無視だ。



「玲子〜!」

『………』

「玲子ってばー!!」



なかなか機嫌を直してくれない。


さっきからずっと無視され続けているラビ。



『…なんかうるさい羽虫がいる』

「ヒドッ!!流石にひどすぎじゃねぇ?!」

『…黙れ』



いつにもなく低い声色で言う玲子。


思わず首を引っ込めてしまった。



「(まだ怒ってんのかなー…)」



そりゃあ、アレンの注意を無視して席を立った俺が悪いんだけどさ。


油断してた俺が悪かったんだけどさ。


でも、まさか急ブレーキがかかるなんて誰だって思わないだろ?



「だからあれは事故なんだって!」



いくらなんでも、偶然起きた事故なんだから仕方ないだろ!


故意でした訳じゃないんだから、もうそろそろ許してくれたっていいじゃないか…。



「…なー、玲子〜!怒ってる?怒ってるなら謝るからさ…」



だからもう無視はしないでください。


本当にキツイですから!



「…玲子ー…」

『…………』



…無視は、継続中名ようです。



「玲子…もう勘弁してください…お願いしますっ!」



この通り!とラビは両手を合わせて許しをこう。


玲子はちらりと冷たい目をこちらに向けただけだった。



『…あのね』



少しイラついた口調で、やはり冷たい目付きで玲子はラビを見下ろしていた。



『あたしはさ、その事故で怒ってる訳じゃないんだよ』

「へ?」



あの事故…、玲子のもとにダイブした事を怒っているわけじゃない?



「…どういう?」

『いや、確かにちょっとは怒ってるよ?いきなりダイブされたのは。でも違う』

「…?」



俺がダイブしたのが嫌で怒っているのかと思っていた。


違うってどういう意味だろう。



「…もしかして、俺が急に立ったから?」



で、危ないからっていうのを聞かなかったから怒ってんの?


まさか、な…。



『そのまさかだよ』

「…えっ」



玲子はラビの予測を読み取ったかのように言い、振り返りラビに近寄る。


ラビより背の低い玲子は自然と上目使いになる。



『あたしがいたから良かったものの、誰もいなかったら怪我してるじゃないの』


ビシッと指を指され怒ってはいるものの、何となく反省する気になれない。

なぜなら、玲子が怒っていた理由を知ったから。


ダイブをしたことを怒っている訳ではなく、怪我しそうになった自分を心配して怒っていたという。


なかなか嬉しくて、顔がにやけてしまう。

それがまた気に食わなかったのか玲子は眉をひそめて膨れ上がった。


『何がおかしいの』

「いや、別に?」


嬉しくて、なんて言わないけど。



「ありがと、玲子」



せめて御礼は言わせてくれよな?




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ