story
□鼓動
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チェス板模様の床。
ゆらゆらと揺れるキャンドルの炎。
テーブルには豪華なディナーが数多く並んでいる。
そこに不釣り合いな本の山が無造作にも置かれていた。
テーブルに足を乗せ、頬杖を突いてペンを取っているのは制服を着た少女。
「よぉティッキー、Hola」
「うげ」
少女、ロードが今何をしているのか即座に理解できたティキは、短い拒否反応の言葉がつい口から出てしまった。
帽子をメイドのアクマに預け、ロードに歩み寄る。
「何してんのよ?」
「見てわかんねェ?ベンキョォー」
「学校の宿題明日までなんですっテ∨」
椅子の前脚を浮かせ、ガタガタと揺らすロード。
ロードは宿題を手伝ってほしいとティキに頼むが、ティキは拒否。
しかし、
「今夜は徹夜でス∨」
間髪いれず伯爵が言った。
伯爵はハチマキをして気合い十分といったところ。
ティキは嫌な予感がしてならなかった。
「ねぇチョット、まさかオレ呼んだのって宿題のため?」
嫌な予感を聞いてみると、それはどうやら「当たり」のような雰囲気。
渋々本をめくるティキ。
その目の前に伯爵からスッとカードが差し出される。
どうやらこれが呼出しの本当の理由のようだ。
「一つ目のお仕事∨ここへ私の使いとして行ってきて欲しいんでス∨」
「遠っ」
カードに印された場所を確認したティキは、思いの外遠い場所だったため少しばかり嫌な顔をした。
疲れているため多少遠くへは行きたくないのが本音だったりする。
「まあそう言わずニ∨二つ目のお仕事∨
ここに記した人物を削除してくださイ∨」
カードを右にスライドさせ、二枚目のカードを見せる。
人物の名前の多さを見たティキは少しだけ顔を歪めていた。
しかしその歪んだ顔もすぐに戻り、「多っ」と口から出していた。
「了解っス。そんじゃ宿題頑張ってね」
そそくさと出て行くティキに伯爵は「早っ」と素早くツッコミを入れた。
そんなティキを呼び止めるロード。
「ティッキー。手伝ってくれてありがとぉ」
ロードの御礼に微笑をもらし、帽子を被った。
「家族だからな……」
いやいやではあったが例を言われるのはなかなか嬉しいものだ。
「じゃーな」
ロードや伯爵に背を向け、外に出ようとした時、伯爵に呼び止められた。
「ティキぽん」
「…何すか?」
ゆっくりと伯爵に向き返るティキ。
爪先の方には不気味な伯爵の笑みがあった。
いくら自分の兄弟だと分かっていても、顔が半分影に隠れた伯爵の笑顔は見慣れているとはいえ、心臓に悪いものだった。
「…な、なんなんすか」
「聞きたいことがありましてネ∨」
鉛筆をテーブルに置き、ティキに歩み寄る。
「アレをちゃんと渡しましたカ?∨」
伯爵は笑顔のままティキの返事を待っていた。
「…ちゃんと渡しましたよ」
「そうですカ∨ならいいんでス∨ありがとうございましタ∨」
伯爵はにこりと笑いティキを送り出した。
今度こそ外に出るティキを伯爵は見送っていた。
「……あとは、アクマちゃんを送り付けるだけですネ…∨」
闇にそう呟いた。
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