story
□列車事件
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花の呪縛から漸く開放されたアレンとラビ。
室内を降る雨の中、膝を着いて俯いているクロウリーを見つけた。
「クロウリーさん?」
トラウマになりかけているラビを後ろに、アレンはクロウリーを呼ぶ。
しかし返ってくるはずの返事はない。
「このアホ花…」
少し間をあけて呟かれた言葉。
「ブス花クソ花グロ花ウンコ花ー――!!!」
今度は確かに聞きとれる十分な声量で食人花に罵声を浴びせた。
足場となっていた花は怒りを表しクロウリーを飲み込み、近くにいたアレン達も巻き添えをくらった。
「うわぁあああ!!」
「クロちゃん何やってんだー―!!!」
またもや花の呪縛に嵌まってしまい叫ぶ二人。
しかし
「うるさいである!!!」
異様なまでのクロウリーの怒声に驚き、アレンはクロウリーを見る。
そして涙を流しているクロウリーがそこにいた。
「私はエリアーデを壊した…
もう…生きる気力もないである…
さあ 私を殺せであるドアホ花ー!!」
「「ぎゃああああ やめろボケー!!」」
二人が叫んでもまだ花への罵声をしようとするクロウリーをアレンは乱暴に口を塞ぐ。
「落ち着いてください!!
! 右腕負傷してるじゃないですか」
紙のように薄くひらべったくなっている腕をアレンは見つめる。
「こんなもの…またアクマの血を飲めば治るであろう…」
しかし水分を抜かれ干からびている腕をクロウリーは気にもとめていなかった。
腕の痛みなどどうでもよかった。
比べものにならないほど、心が痛い。
「…愛していたものを手に掛けてしまった」
一緒になれなかった苦しみ。
愛した人を手に掛けた罪。
死にたいと、心からそう思う。
アレンはクロウリーの言葉を聞き、はっと目を見開く。
…今のクロウリーは、昔の自分と似ている。
そう思った。
なら尚更、彼を生かさなければならない。
屁理屈でもなんでもいい。
理由をこじつけて自分を正当化しなければならない。
仕方のないことだと諦めるしかないんだ。
エクソシストは、アクマを破壊しなければならないものだから。
たとえ、愛した人だとしても…。
「理由の為に生きればいいじゃないですか」
自分のように。
「あなたもまた神の使徒なんだ…」
クロウリーは静かに涙をながし、雨はまだやむ気配は無かった。
クロウリーが屈み込み、荒れた城が目に入る。
「――…」
先程までは、クロウリーに気を取られて周りが見えていなかった。
ラビはキョロキョロと回りを見渡し影を探した。
「…玲子」
どこだろう、と身を乗り出すと以外にも体がするりと抜け出た。
花の上に立ち見渡す。
すると自分達のいる花と少し離れた所に、一方を見たまま動かない玲子を見つけた。
何を思っているのか分からない。
ただ、あのアクマの着ていた服を抱いて立ちすくんでいた。
「――……ぁ…」
玲子見た時、既に足は玲子に向かっていた。
エリアーデ。
ゆっくりと衣は宙を舞い降りてくる。
ゆらゆらと袖を揺らしながら、ふわりと地に落ちた。
衣を拾い上げるとまだ微かに残るエリアーデの香り。
今はもう無い彼女の姿。
玲子は衣だけを見つめていた。
『…エリアーデ…』
空蝉のように衣だけを置いていなくなってしまった。
それをさせたのは自分。
自分のせいで悲劇を二回も、三回も起こしていたのか。
カーフェイがアクマになったのも
エリアーデがアクマになったのも
マリンがいなくなってしまったのも、全部全部…。
自分という存在のせいで…。
『――…っ』
なんて、ひどい存在なんだろう。
彼女らをアクマにして、自分は生きてる。
そんな自分がとてつもなく憎い。
『……あたしなんか、いなければよかったのに…』
衣に顔を埋めて悔やんだ。
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