story

□列車事件
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「…玲子」



見かねたラビが玲子に声を掛けるが返事は来ない。



「その…、戻ろう。濡れたままじゃ風邪引くさ」

『…やだ』



雨に打たれて動こうとしない。



「玲子…」

『止むまでまって…お願い……』



名残惜しむように上を向いて自ら雨に打たれる玲子。


ただ一方を見続けて動かない玲子。


その玲子の隣にラビはついた。



雨か涙かわからない。


頬を伝う水滴。



「…拭けよ。こんなんで悪ぃけど」



自分がしていたバンダナをラビは玲子に差し出した。


玲子はそれを受け取り、顔を隠すように目に当てた。



『…泣いてないよ』

「…うん」

『…泣かないよ』

「うん…」

『これは、雨だから…』

「分かったって…」



それだけ言うと、玲子は俯き、ラビのバンダナをぎゅっと握って黙り込んだ。



「…なぁ、玲子」



俯いたまま返事は返ってこない。


黙ってラビの声だけを聞いている。



雨は止みかけてきた。


けれど止まない雨がここにある。



「ひどい雨だな…」



別れの雨は止んだ。


そして、これから降る雨が一つ。



「…止むまで待つから」



――…好きなだけ泣け。


気付けばもう、腕の中。



「吐き出せよ。全部、受け止めてやるから…」



玲子の頭に手を沿え、自分の腕の中へさらに押し込んだ。


ラビの馬鹿、と小さい声が聞こえた。


抵抗さえしない玲子は小さく腕の中で納まっていた。



「…あのアクマは、泣きたいだけ泣いて、玲子を濡らしていったんだな…」



びしょ濡れの背中に軽く手を当てる。


泣いてなのか、寒さでなのか、玲子は震えていた。



『…っ…ごめっ、エリ…デ…』


「(まったく…)」



玲子は下手だ。


プラスの感情、嬉しさとか笑いとか、そういうのを表すのは上手いのに。


泣くとか、マイナスの感情を表すのが下手くそだ。


それを溜め込んで歪んだ顔を無理に笑顔にしようとする。


そういうのを見るのが、つらい。


だからたまに吐き出させてやらなきゃいけないんだ。



まだ、玲子の雨は止みそうになかった。









《うん それは思わぬ収穫だったね》



クロス元帥の話を聞き、新しい仲間を連れて汽車を待つ。


ラビはコムイに連絡を入れに、少し駅のホームから離れている。


アレンは今頃自分の目について考えているのだろう。


進化していく過程がアクマのようだと。


玲子はベンチに座り、ぼんやりと空を眺めていた。



『…また泣いちゃった…』



自分はなんて意志の弱い奴なんだ。


もう泣かないと決めていたのに、早速その決意を自分で裏切ってしまった。


しかし不思議とすっきりしている。


やはり、泣いて正解だったのかもしれない。


憂鬱なままだと任務に支障がでる。


気持ちがぐしゃぐしゃのままでは、思うように動けない。


それに、仲間の足を引っ張ってしまう。


それこそ裏切りになってしまう。


仲間を守るためにいるはずなのに足を引っ張ってしまっては何の意味も無い。


そう後悔させないように、泣かせてくれたラビ。


あの時のラビの腕の温かさは本当に有り難かった。



『…お礼、言わなきゃな…』



ふ、とすっきりしたように顔を空から地へと移す。


調度停車している汽車の窓ガラスに自分を写しているアレンを視界に捕らえた。


アレンは髪を掬い上げまじまじと見ている。



『(気になるのかな、やっぱり)』



アレンの動きが止まった、その時。



『…っ!!?』



左目の発動と同時に、嫌な悪寒が走った。


アレンの目のせいだろうか。


捕らえられているような鋭い感覚に玲子は冷や汗を流す。


これは凄い。

凄いけど、今の感覚は一体…。



「ラビ、玲子さん!」



はっとアレンの声で現実に戻され、ホームに響くベルを後に汽車へと飛び乗った。



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