story

□追憶
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クロウリーを追って城へ入った玲子。


城に入ったものの、クロウリーを見失い城内でさ迷うはめになった。


…どこだろう。


『…迷った、かなぁ』



そうぼやきながら城の奥へ奥へと進んでいく玲子。


「…〜〜、…〜……」



ある扉の前で話し声が聞こえてきた。



高い声、女性の声だ。


それから、先ほど聞いたばかりの低い男性の声。


低い声の主はクロウリー。


それから、おそらく女性の声は、きっと……



『…エリアーデ…』




不意に出た声に、自分自身が驚いた。


何、この違和感。


すごく、なんだか急に津波のように不安が押し寄せて来た。


何、この変な焦りは。


なぜこんな不安に駆り立てられなくてはいけない?


何に、今、恐れているのだろう。








言うまでもないか。


何に恐れているのか、何に不安なのか、自分がよく分かっている。


自分が、心が、動揺しているのはきっと









昔、エリアーデに会っているから。





あの時のエリアーデと、ここにいるエリアーデを知るのが怖いんだ。


同一人物、もしくは全くの別人かもしれない。


それなのに、真実を受け止める覚悟はない。



『…エリアーデ…』



昔の記憶を巡り返していると、無意識のうちに扉を開いていた。







「…!誰!!」



扉の音に反応したエリアーデは大きな声を上げた。



『ぇ…と、こん、ばんは…』



咄嗟に出た言葉はこんなものだった。


エリアーデは眉をひそめて玲子を見た。



「(エクソシストか)」



玲子の胸にあったローズクロスに気付いたエリアーデ。


一瞬にして殺気立ち威嚇を始めた。



『待って、何もしないから』

「…」



しかし玲子はそんなエリアーデをいさめている。


エリアーデはさらに眉を寄せた。


警戒心からではない。




「(…この子)」



このエクソシスト、この女の子、全く殺気をこちらに向けていない。


敵と判断したものからは、殺意のかけらも感じなかった。


それどころか



『危害を加えるつもりはありません。あなた達に何もしません。だから…』



安心を乞うような事を言う。



「ほ、本当であるか?」



玲子の言葉に反応したクロウリーはおずおすと聞き返していた。



『本当です。安心して』

「本当に本当であるか?」



少し嬉しそうに、けれど挙動不信に落ち着きのないクロウリー。


玲子はふと笑った。



『…あたしには、あなた達を傷付ける理由がないよ…』


勝手に第三者が割り込んで、壊していい物じゃないから。



その呟きにエリアーデは目をあげる。


するとエリアーデは彼女と目が合った。



「(…あ…)」



優しい目。


だけど、同じように

悲しい目。


なんでそんな目をして微笑むの?




…何考えてるのかしら。


この子と会ったばかりだというのに、何が分かるというの。


この子につられて、少し感傷的になったのかしら。



「アレイスター様、私はコレを埋葬しておきます」

「あ、ああ。分かったである」



深く考えるのはよそう。



『あたしも手伝います』

「そう。じゃあお願いするわ」



エリアーデはアレイスターにやられた男を引きずりながら部屋を出た。


玲子はエリアーデについていき、後ろをゆっくり歩いた。


廊下は、引きずられる音が鳴り響く。





『…あなた方は、悪くないから…』


不意に聞こえた声に、エリアーデはゆっくりと振り向いた。


…何でそんな事を言う?


何を知っているというの?



『あたしは何もしないから…あたしがどうこうしていい事じゃないから…』

「……」



遠くを見ているような、目。

落ち着いた音程の、声。

…不思議だわ…。


この目、この声、あたしは…どこかで



知っているような気がする……。




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