story

□追憶
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「(…なんか、情けないな)」



アレンは落ち着いている玲子に感心し、そして自分を情けなく思った。


玲子はこんなにも冷静でいるというのに、自分ときたら吸血鬼の話なんかで臆病になって…。



「(こんなんじゃ、いつまでたっても玲子さんを守れないじゃないか…)」



強い玲子を、いつか自分は守る事ができるのだろうか。


静かに歩く玲子を見て、アレンは深くため息をついた。




「(…ん?)」


静かになったアレンから視線を外したラビは、次に玲子の方に移した。


すると、ラビはある事に気付いた。


黙々と歩いている玲子は微妙に俯いており、下唇を噛み締めているように見えた。



「…玲子…?」



アレンに聞こえないように小さな声でラビは呼び掛ける。

『何?』と返って来ると思った。



いつもの玲子なら。



しかし予想を反して返って来たのは、ビクリと肩を上下させぎこちなく振り返る玲子だった。



「(……あ、れ?)」



震えてる。


見上げた顔にはうっすら涙が滲んでいた。


…え。
何これ。

いつもの玲子じゃない。


明るくて、気の強い玲子じゃない。



『…ラビ……』



…もしかして。




「…玲子、怖い?」

『……〜ッッ!!』



声にならない声で玲子はラビに訴え静かに頷いていた。


…マジで?


あの玲子が怖い?



「大丈夫か?」



ふるふると首を横に降る玲子。


泣きそうになりながらこんなところまで来て、歯を食いしばって我慢していたなんて。



「…そんなに?」


『……………怖いぃ…っ!!



玲子は何回も頷いていた。


全然気付かなかった。


だっていつも逞しくいる玲子だ。


弱点なんかあるわけないと思ってしまうじゃないか。


でも今ここの玲子は半ベソで、変な奇声が聞こえるたびビクビクしていて。


思わぬ所で玲子の弱点を見つけてしまった。


しかもそれに気付いてるのが俺だけだとか…。



なんか…、嬉しい。


俺しか知らないんだ、玲子が弱いもの、苦手なもの。


子供じみた独占欲がなぜか心地よかった。


暫くは、この優越感に浸っていたい。



「…つかまるか?」


ラビは玲子に手を差し出した。


玲子もそのラビの手を掴む。


そうしようとした時



「「『…!!』」」



アレンとラビ、玲子はある視線に気付き、背筋に寒気が走る。


背中合わせに構えると、向こうが物凄い勢いで近付いて来るのが分かる。



「ぎゃぁあぁあああ!」



村人の一人が悲鳴をあげ、腰を抜かして震えている。


その視線の先には黒いマントを羽織った一人の男性が村人をくわえそこに立っていた。


水分を啜る音が森に広がる。


アレンとラビは、青ざめながらそれを見ている。



『何してんの!早く…』



二人は玲子の声で我に帰りイノセンスを構えた。


クロウリーはその二人に突っ込んでいく。


玲子は静かにその成り行きを見ている。



『とりあえず、村の人は下がって』


襲われる心配はないだろうが、念のため玲子は村人を下がらせた。


『(怪我人は出したくないからね)』



玲子は村人の前に立つとイノセンスを発動させた。


黒い球体の莫を村人の回りを取り巻くように作り上げる。


とりあえずはこの莫の壁が村人を守ってくれるだろう。


アレン達はクロウリーを追い込んでいる。






「う…げぇええええ!苦い!!」

『!』



アレンの血を吸い、口に合わなかったのかクロウリーは逃げるようにアレンの手から逃れる。




「せ、洗面器ー!!」

『しまった!待って…!』

「え、おい玲子!?」



玲子はクロウリーを追って茂みへ入り込んで行ってしまった。


後に残ったのは痛いほどの静寂だった。





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